「そうですね~何個か心当たりはあります」
「”何個か”…?」
「でもあなたほど悪いことはしてないですよ」
「何をしたんだ?」
「人のお墓を掘って色々盗みました」
俺は飲んでいた水を思わず吹き出してしまった。
「それは心当たりというかもう確信犯だろ」
「仕方ないじゃないですか!あなたを倒すために最強の剣・盾・鎧が必要だったんです」
「え?おまえまさか、”伝説の勇者”の墓を掘り起こしたのか…?」
「さすが魔王さん、察しがいいですね!」
勇者は、数百年前に大活躍した”伝説の勇者”の墓から最強の武器防具を盗みそれを装備していた。
その武器防具はどんなに弱いやつも最強にしてしまう、いわばチート装備だ。それならば俺が倒されたのも頷ける。
「伝説の勇者の墓を荒らして盗みまで…なんて恐ろしいやつだ」
「まあ盗んだというか借りたんですけどね。僕だってあとで返すつもりだったんですよ。まだ使えるなら必要な人が使うべきだと思いまして」
「おまえ勇者より盗賊のほうが向いてると思うぞ」
少しばかり落ち着きを取り戻した俺はやっと水を飲み直した。
「で、あとは何をしたんだ?」
「家賃の滞納です」
俺は飲みこんだばかりの水が逆流して咳き込んだ。
「おまえ勇者以前にまず人として大丈夫か?」
「原因はあなたですよ!あなたを倒すためにすべてのお金と時間を投資したんです。魔王を倒しさえすれば莫大な賞金が手に入るでしょう?だから家賃はあとで払おうと思っていたんですよ」
「なんでそんなハイリスク・ハイリターン思考なんだ」
「またまた魔王さん察しがいいですね!そうなんです、生活費も苦しかったのでカジノで一儲けしようとしたんですが大負けしちゃって多額の借金が──」
***
俺と勇者は牢屋の中で特にやることもなかったため、何気ない会話をして暇をつぶすようになった。
「魔王さん、しりとりしましょう!」
「いいぞ。しりとり」
「利益!」
「危険。あっ」
「あっ!魔王さんの負けー!やった僕の勝ちー!」
「無意識におまえの生き様を表してしまった」
しりとりに勝って喜んでいる勇者は俺の皮肉などもちろん聞いていない。
「それにしても毎日牢屋しか目に入らなくて暇だな」
「ここを出たら何をするか考えましょうよ!」
「おまえ俺より刑期長いのにそのポジティブさはどこから来るんだ」
「いやあ僕、魔王を倒して偉いからもう何をやってもいいと思うんですよね。何をしても許されると思うんです!」
「おまえみたいなやつは一生檻から出してはならないタイプだ」
「一生か…一生はちょっといやだなあ…」
数か月後、勇者は脱獄した。