目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話 怪獣族

 俺が俺として――『ジンガ』と認識したのは、所に言う"ものごごろ"がついた時だった。


 天を仰げば太陽が。だけど太陽の向こうには世界が続いている。翼がある翼竜や怪鳥、羽がある昆虫ならば空を飛んで海を渡り、向こう側の地面に辿り着くことができる。つまりは地球の内部世界――地球空洞説がカッチリとハマる世界が俺の住む世界だった。


 でも前世の地球と同じく朝は日が徐々に現れ、昼に燦々と輝き、夜は日が沈んで星空を覗かせる。そんな昼夜の概念はある。


「空の仕組み? そんなのは知らん。ただアレはそういったものだ」


 唯一の肉親であるじいちゃんがそう言った。


 変な質問してくるなぁ。とじいちゃんは怪訝な表情で考え事した後。


「いろいろな疑問を持つことは大切だ。それは探求心になり、心を豊かにする。ジンガ、心を豊かにする行動をしなさい」


 優しい笑顔で俺の頭を摩ってくれた。


 俺とじいちゃんは一定の場所に留まらず、温かい気候の場所、喉がカラカラになる熱い場所、ほどよい気温で紅葉が落ちる場所、寒くて震えてしまう場所など、この世界を歩いて生活していた。


「ブモ゛オオオオオ!!」


「ッフン!!」


 ――ッドゴン!!


「おお! 腕力で倒せたか! でかしたぞジンガ! さすがはワシの孫じゃ!!」


 食事はもっぱらモンスターの肉だ。倒した巨大なイノシシ型のモンスターを解体し、肉を削ぎ、火にあぶって食す。


「命に感謝を」


「命に感謝……」


 頭を下げて一礼。生きるということは命を糧にすること。最初は地球と通じる概念があると驚いたけど、じいちゃんを習って習慣付いた。


「ジンガ。よく覚えていなさい。このキノコには毒がある」


「見るからに毒っぽい」


「このキノコのニオイを覚えておけ。おっと、こっちには食べれるキノコだ。これも覚えておきなさい」


「わかった」スンスン


 使やモンスターの生態と倒し方。それ以外にも地理的な知識や生きるための大小様々な知識までを俺に教えてくれる。


 近くの川で水浴びをし終えたそんなある日。焚火を絶やさまいと薪をくべている日常の姿。不意にじいちゃんが鱗が下がった難しい顔をして横に座る俺を見た。


「今から教える事は、ワシが寿命を迎えてお前が一人になってしまう回避不可能な未来にて、ジンガが選ぶ選択肢の一つ……その行きつく可能性を教えることにする」


「じいちゃん……?」


 ――パカ。


 急に何を言い出すんだ。そう問いかける間も無くじいちゃんは下腹部の鱗をまさぐり、ある物を取り出した。


「……なにそれ」


「アイテム袋と言う。魔道具だ」


「――」


 キョトンとした顔でそれを見る俺。しかし内心は混乱の一途をたどっている。


 生物で言う生殖器が内臓された部分から取り出したそれを遠慮したいという混乱は少なからずあるが、この原始的な世界にてなんてファンタジーがじいちゃんの口から出た事に驚いた。


「この袋は特殊な細工が施されていてな、小さな口ではあるが袋に入る物なら物理的な際限なく入れて出せる代物だ」


「肉も入れれるの」


「入れれるが生肉はダメだな腐るし。干し肉ならば携帯用にいいだろうさ」


 そう言いながらアイテム袋をまさぐるじいちゃん。


「この中には世界を渡り歩くために便利な物がたくさん入っておる」


「……便利な物? 今までも別に不自由なく過ごしてるじゃん」


「そうだな。アイテム袋なんて必要ない」


「……」


 "この世界"とじいちゃんは言った。自然に溢れ、どの生物も本能のまま、あるがままに生きているこの地球空洞説世界。


 俺にとっては前世の地球とこの世界しか知らないわけだ。でもじいちゃんの言い方、その捉え方一つで物の見方が変わってしまう。


 そう思っていると、アイテム袋から何かを握り込んで出したじいちゃんが俺を見た。


「……聡いお前のことだ。ワシが何を言っているか理解はしているのだろう」


「ちょっとだけ……」


 俺の答えに満足したのか、じいちゃんはニッコリと笑った。


 すると握り込んだ手を開くと、手の平の上には指輪があった。


「ワシたちは他の追随を許さない圧倒的な身体能力と防御力、攻撃力を持つ種族だが、ヒューマンやエルフ、ドワーフや妖精とは違い魔力を持たん」


「魔力……」


「そうだ。魔力に関しては追々だな。話を戻すが、ワシたちの姿形はモンスターの類と見間違われても仕方ない所がある。だから先人は魔力と魔術が込められた魔道具を使い、姿を変えていた」


 そう言いながら指輪を指にはめるとあら不思議。ッボン! と煙が一瞬包むと、じいちゃんの姿は俺が良く知る人間の姿に変わっていた。


 堀の深い顔に加え、白髭を伸ばした如何にも長老染みた姿だ。


「……誰ですか」


「ワシじゃ!?」


 一応知らない体でボケて見たがじいちゃんは普通にツッコんできた。


「この姿はヒューマン、の老人だ。……年数的に一番数が多くなっている種族のハズ。こうして指輪の魔術で姿を変え、他種族と関りを持ち先人たちは生活していた。まぁ中には本来の姿で生活していた者もおったそうな」


 色々と気になるワードが飛び出した。だけどもそんな考えを知ってか知らずか、じいちゃんは指輪と外して元に戻り、その指輪を俺に差し出した。


「ほれ、ジンガも指にはめてみなさい」


「うん」


 手渡されてた指輪。側面は何の変哲もない指輪だけど、よく見ると内側には魔術の模様らしきものが見える。


 尖った爪から通し丁寧に指にはめるとあら不思議。


 ――ッボン!


 と煙が俺を包んだ。


「……ふむ。変わる姿はこころの写し鏡と言っていたが、ジンガのヒューマンはなんとも顔が平たいのぉ」


「ひらたい?」


「そうだ。ワシの記憶では遥か東の島国、そこのヒューマンの特徴と一致するのぉ」


「東の島国……」


 この場に鏡はないけど、俺にはわかる。俺のヒューマンの姿はまさに前世の姿と酷似していると。


 なぜだろうか……。この姿になると妙にムズムズするのは……。


 とりあえず指輪を外して元に戻り、じいちゃんに返却した。


「これ以外にもアイテム袋にはまだまだ役に立つ物がある。それらは将来、必ずお前の役に立つ……。だから時折アイテム袋の中身をジンガに教えるとするかのぉ」


「ちょ、じいちゃん!」


「ッハッハッハ!!」


 そう言いながら俺の頭を撫でるじいちゃん。俺はそれがこそばゆくて好きで嫌がりつつも、それがわかっているのかじいちゃんも余計に撫でて来る。


 おそらく、じいちゃんは予感してたんだと思う。


 自分の死が近い事を……。


 だから後生秘密にしていたアイテム袋の存在を明かした。


 自分が居なくても、俺が逞しく生きれるために……。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?