――ッドワオッッ!!
衝突する力と力。
「グロ■ロ■■ロロロッッ!!!!」
方や大地を瓦解させる程の脚力で。
「うおおおおおおおおおおおッッ!!!!」
方や幾多の巨大モンスターを屠ってきた俺自慢の腕で。
どちらがより優れた力を持つのか、どちらがより優れた生命なのかを命がけで試していた。
――ッドワオッッ!!
「ッ!!」
「グロ■ロロロ■■■■ッッ!!!!」
本日四十四発目のドツき合い。見た物がため息をつくほどの荘厳な結晶洞窟。この世界の太古からあるとされる洞窟は、文字通り地形を変化させる破壊活動により既にその原型を留めておらず、そこに根付いていた俺の相手――結晶竜も美しかった姿は崩れている。
――ッダギャン!!
「ッ!!」
「ッ!?」
俺の背丈よりも数倍ある結晶竜の拳。そこに全力の右ストレートをぶつけ合った結果、空間が揺ぐと同時に辛うじて洞窟を保っていた場所が衝撃波で瓦解。洞窟に生っている結晶も爆ぜて舞い、俺と結晶竜の体に降り注ぐ。
――キィンッ!!
瞬間、体の芯に響く音と強烈な衝撃と痛みが襲う。
「ッグ!?」
――ッドガ!!
結晶竜の尻尾振り回し攻撃を横腹を中心に側面にモロに受け、俺はその勢いのまま生っている結晶を破壊しながら壁に激突した。
あまりの威力に俺を中心に壁が陥没。パラパラと石や岩が地面に落ちる。
(痛ってええええ!! 油断してたら骨が逝ってたかもッ!!)
むき出しの歯を食いしばって痛みに耐える。俺の反応速度を超える尻尾先端攻撃。耳がイカレそうなのは奴の攻撃が音の壁を超えたからだろう。
痛みを堪えながら片目を開いて奴を見た。
「――――」
体を大きく逸らせ、大きく開けた顎にはエネルギーが集約。パリパリと口元のエネルギーから細かな結晶が落ちるのは、奴が結晶竜ゆえだろう。
(ブレス攻撃!? 直撃はマズいッ!! 間に合うかッ!!)
俺は身の内の力を練る様に増幅させる。次第に紫電が体に帯電していくと同時に、結晶竜は一瞬口を閉じ――
「――ッバガアア■■アアアアア■■アア■■ッッ!!」
一気に放出した。
「――ッ!?」
奴本体を丸まる飲み込める程の白銀色のブレス。おおよそ口から発射されたとは思えない大きさのブレスは、小さな俺どころか岸壁を易々と飲み込み、遥か向こうの彼方まで突き破った。
(ぐおおおおおおおおおおおおッッ!?!?!?)
体自体を、体の芯を、存在そのものを超振動させるブレス。耳の鼓膜が破れそうになる轟音と、腕をクロスしても正面から防ぎようのない圧倒的な衝撃と痛み。
前世においても、今生においても、感じた事のない最大級のショック。
「ガアア■■アア■アア■ア■■アア■■ッッ!!」
――絶対に屠る。
それを感じずにはいられない執拗なまでのブレス攻撃は止むことはない。
(ッッッ~~~~!!!!)
今すぐ食いしばる歯を解きたい。今すぐクロスした両腕を解き、真正面からブレスを受けたい。楽になりたい。その思いが防衛本能と生存本能を諦めさせる。
でも、俺は抗っている。
「ッグ――」
防御体勢をとっているから。
「ッッッグウ!!」
バチバチと爆ぜる紫電を纏っているから。
「ッッグウウオオオ!!!!」
間違っていない。それらは間違っていない。
ただ一つ、付け加えていない。
俺は――
「――ッグゥオオオオオオオオ!!!!」
心が負けていない!!
「■■アアアアア■■アア■――」
瞬間、瞼を閉じていてもわかる白い視界が更に白くなる。
地殻から破裂したブレスは線を残して消え、直撃した箇所一帯がさながら結晶の海と化していた。
安寧。
静かになった結晶の海。
「……!」
だからこそ、屈折したクリスタルの中でもわかるほど、結晶竜の驚いた顔が面白い。
結晶の海。その一番大きなクリスタルの中に紫色の花火――紫電が縦横無尽にほとばしっていた。
最初は微かに聞こえた鈍重の音。それが先端のクリスタルに近づくにつれ、紫電と音が徐々に広がり空気を震わせた。
そして――
――――バリンッッ!!
「――うおおおおおおおおおおお!!!!」
巨大クリスタルを突き破った俺が突出。
紫電を纏った俺は勢いのままに結晶竜に突撃。力いっぱい握り込んだ拳を突き立て――
――――ッゴボッッ!!
結晶竜の顔面に殴りつけた。
「――ッ!?」
発生する衝撃波は空気と空間を震わせる。
声にならない悲鳴を上げながら、顔面の衝撃で首を伸ばす竜。
「――」
「――」
しかし闘志は消えていない結晶竜。巨大な目と小さな目。俺と目と目が合う。
速攻を仕掛けたのは結晶竜。
「ッバガアア■■アアアアア■■アア■■ッッ!!」
溜めたエネルギーが十二分に残っているのか、チャージせずに再びブレス攻撃。
空中で自由落下する俺は直撃し、一瞬にしてブレスの中に消える。
二度目の白銀の世界。
そこに紫電が凌辱し、光輪が姿を現した。
そして――
「――ッッ!!」
――ギュイィィン!!
熱線、発射。
細々とした熱線は一瞬にして巨大なビームに成り、ブレス攻撃を中から裂く様に拮抗。拮抗したビームとブレス攻撃の衝突により破裂した火花の熱がクリスタルの海を溶かしていく。
(うおおおおおおおおおおお!!!!)
ブレスの様に息を吐くのとは違う
結晶が生成され熱に溶かされる。その様子が辺り一帯に広がるころ、ビームを撃ち続けた俺は紫電を背中から放出、一気に結晶竜の顎へと近づいた。
「ッバガアア!!」
「ッ!?」
まさかの噛みつき攻撃。
(器用なことしやがるッ!!)
ブレスを吐きながらの噛みつき。まさかの攻撃に俺は顎に挟まれ捕食される寸前にまで追い詰められるも、ブレスを直撃しながら脚で下顎、両手で上顎を閉じさせまいと力いっぱい力んだ。
(だったら俺も意地だあああああ!!)
噛みつき攻撃で止めてしまった熱線ビームを再び開始。光輪は細く細かく長く。次は広範囲ではなく貫通力を持たすビームを放つ。
「アア■■アアアアア■■アア■■ッッ!!」
「ッッ!!」
意地と意地の比べ合い。
一分にも見たいない超至近距離の攻撃は――
――――ギュイィィン!!
竜の喉から首に貫通し、やがて静けさを取り戻した。
「――……」
夜。
地球空洞説世界に星明りが眩く中、メスを誘う虫系モンスターの羽音を聞きながら小さな洞窟に入る。
暗い通路を進むと明りが見えてくる。それは火の明りでもあり、星明りでもあった。
空いた天井から星明りが差す。ここはまるで大きな岩をくりぬいた様な洞窟だ。
草木で築いた天幕。その下には干し草を敷いた簡易の寝床が。
「じいちゃん、ただいま」
「おぉ、帰って来たかジンガ」
俺を迎えたのは、昨日よりも少しやせ細ったじいちゃんだった。