明確な地上への入口、出口はわからない。わからないからこそ。
「自分の脚で探すしかないよな」
そうして俺は駆けた。
砂漠地帯が広がる西に向かい、亜熱帯が広がる南にも歩き、綺麗な桜の様な木がある東にも足を運び、凍える北の大地でかまくらを作り中で寝た。
手つかずの大自然の中を駆けまわり、何度も昼夜が過ぎた。しかしどこにも地上へ続く出入り口や、それに繋がる何かを見つけることはできなかった。
「うーん……」
何度も何度もそれらしい地下洞窟や山の天辺に登ったりもした。それでも見つからないとなると、これに縋るしかなかった。
「太陽に突っ込む」
何を馬鹿な、んな訳あるかいと、ノリツッコミみたいに自問自答。でもよく考えると、そんな馬鹿な話は空洞説世界の存在が真っ向から否定している。それにヒューマンならまだしもエルフやドワーフ、妖精なんて種族もいる話だし、なによりアイテム袋という魔術要素もあるわけで。
つまりは太陽に突っ込む提案は、至極真っ当な行動だと思う。
真っ当な行動だと思う(不安)。
「よいっちに! さんし!」
冷たい風が頬を撫でる草原地帯。そこで下半身を中心とした準備運動をし、頬を両手で叩いて気合いを入れた。
挑むは文字通りこの世界の中心に位置する太陽。ちょっとしたジャンプでは到底届かない。だからこそ大ジャンプが必要。
「ふぅー」
俺の中では一応確信めいたものがある。それは鳥系モンスターや虫系モンスター、空を飛べる竜モンスターらはある一定の高さにしか飛ばない傾向がある。
まるでそこから上には羽ばたきたくないという感じで。俺はその高さの先に何かがあるんじゃないかと思っている。
「よしッ! ッググ!!」
腰を落として脚に力を入れる。筋肉が緊張、膨張して両脚が少しだけ太くなる。ウンコを捻り出す以上に腹部を、全身の筋肉を目いっぱい力を入れる。
「ッッッ!!」
草原の草を踏み潰し、バキバキと地面にヒビが入り、更には両足部分の地が陥没。
「ッッン゛ン゛!!」
バチバチと紫電を纏うと、脚先から脳天までの鱗が逆立ち、逆立った鱗から紫電の煙が薄く醸し出した。
(太陽に突っ込むなんてバカだ)
突っ込んだとして太陽の熱にやられるんじゃないか。
(絶対に熱い……。鱗が溶け、瞼が破れ、眼球が蒸発し、全身丸焦げになるかもしれないッ)
周囲の空気が震え小動物たちが逃げ回る今、そんな自問自答を繰り返す。
でも、でもそんな自問自答は。
「届かないと意味ないだろうがあああああああッッ!!」
――――ッボッッッ!!!!
一瞬でいなくなった紫の雷。可視化した紫色の衝撃波に遅れてけたたましい音が発生。同時に地面が瓦解し大きく崩れた。
「ッッ!!」
凄まじい風。それを全身で感じながらも、眩しい太陽は燦々と輝き思わず目を瞑ってしまう。視界の端に見える地続きの世界。こちら側から向こう側へ空から侵入したしまう程にスピードが出ている。
「!?」
飛んでいる一般通過翼竜が「マジかよこいつ」と言わんばかりに口を開けて驚いていた。それを視界に一瞬入れた俺はそれを気にせずグングン昇っていく。
(目ぇ瞑っててもクソ眩しい!!??)
そんな時だった。
――――トプン。
「――」
冷たい何かを体で感じたと同時に浮遊感。静かに水に入った様な音と、眩しかった太陽の光が一瞬で消えた。
(ッな、なんだ!?)
慌てて目を開けると俺の知る空洞説世界が見えた。、いつの間にか体勢が変わっていた証拠。そして後ろを振り向くと――
「――?」
太陽の姿は消え、渦が巻いている様なトンネルが広がっていた。
「うお!?」
引力。まるで何かの引力に吸い寄せられる様にトンネルに落ちていく。後ろに流れていく渦巻きの景色。一瞬んで空洞説世界の光景は置き去りにし、俺は自由落下状態でトンネルを落ちた。
「マジでどうなってんだあああああああああ!?!?」
このままどうなるのか。俺は生きて地上に行けるのか。それとも死ぬのか。そんな考えを手足をバタバタさせながら脳裏に過った。
この謎の空間。ちっぽけな存在の俺ではどうにもできない程の圧巻。俺はただ叫ぶ事しかできないでいた。
しかし体感数秒、数十秒、俺の視界はしだいに色を無くしていった。
そして――
――――トプン。
「――うぉおああああああああ!? ――っぶへ!?」
トンネルに入ったと同じような冷たい感触を感じると、重さのある浮遊感に変わり、そのままドサリと落下し倒れた。
「はぁ~~今度なんだ……ッ!?」
起き上がるために着いた両手。確かな地面の感触で驚いてしまった。そのままバッと飛び起きるて上を見ると……。
「……月……だ」
正確には月じゃない。前世で知っている月ではない。しかしそれに似た衛星が確かに空にはあった。
「……」スンスン
それとニオイ。空洞説世界とは明らかに違うニオイ。むこうの世界と同じ美味しい空気だが、空気に何か混じっているのを感じる。
見渡すとここは木々に囲まれた、水面に反射する月明かりが綺麗な湖畔だった。
「地上なのか……」
定かではない。でも、俺の知らない様々な現実がそうだと言ってくる。
「ッ」
ドクンと心臓が脈打った。それは嬉しさなのか、恐怖なのか、または違う何かなのか。だけどじいちゃんの言っていた事は本当だったんだと確信できた。
故に。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
来たんだと。
地上に来たんだと。
鳥肌めいたものが全身に駆け回り吼えた。
(じいちゃん! じいちゃんッ!! じいちゃんッッ!!!!)
地上は本当にあったんだ! 前世では地上じゃなくてラ何とかってセリフだった。それを頭に過りながらも、主語なんて無いくらいじいちゃんを心の内で連呼した。
そして今日は驚きの連続を迎える。
――ガサッ。
「!?」
風も吹いていないのに木々の奥から草が擦れる音が聞こえた。今度はなんだと音の方を警戒していると、そいつらは確かな足取りで現れた。
「ブモ」
「ブオ。ブゴ」
「ブヅ。ブドゥ」
第一村人ないし、二足歩行する大きな第一ブタ、第二ブタ、第三ブタが武器を携えて登場した。
明らかに敵意を俺に向けている。
そんな奴らに俺は。
「ど、どうも……」
手を軽く振ってみせた。
「ブモオオオオオオオオ!!!!」
怒りの形相で襲い掛かって来た。