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第7話 地上へ

 明確な地上への入口、出口はわからない。わからないからこそ。


「自分の脚で探すしかないよな」


 そうして俺は駆けた。


 砂漠地帯が広がる西に向かい、亜熱帯が広がる南にも歩き、綺麗な桜の様な木がある東にも足を運び、凍える北の大地でかまくらを作り中で寝た。


 手つかずの大自然の中を駆けまわり、何度も昼夜が過ぎた。しかしどこにも地上へ続く出入り口や、それに繋がる何かを見つけることはできなかった。


「うーん……」


 何度も何度もそれらしい地下洞窟や山の天辺に登ったりもした。それでも見つからないとなると、これに縋るしかなかった。


「太陽に突っ込む」


 何を馬鹿な、んな訳あるかいと、ノリツッコミみたいに自問自答。でもよく考えると、そんな馬鹿な話は空洞説世界の存在が真っ向から否定している。それにヒューマンならまだしもエルフやドワーフ、妖精なんて種族もいる話だし、なによりアイテム袋という魔術要素もあるわけで。


 つまりは太陽に突っ込む提案は、至極真っ当な行動だと思う。


 真っ当な行動だと思う(不安)。


「よいっちに! さんし!」


 冷たい風が頬を撫でる草原地帯。そこで下半身を中心とした準備運動をし、頬を両手で叩いて気合いを入れた。


 挑むは文字通りこの世界の中心に位置する太陽。ちょっとしたジャンプでは到底届かない。だからこそ大ジャンプが必要。


「ふぅー」


 俺の中では一応確信めいたものがある。それは鳥系モンスターや虫系モンスター、空を飛べる竜モンスターらはある一定の高さにしか飛ばない傾向がある。


 まるでそこから上には羽ばたきたくないという感じで。俺はその高さの先に何かがあるんじゃないかと思っている。


「よしッ! ッググ!!」


 腰を落として脚に力を入れる。筋肉が緊張、膨張して両脚が少しだけ太くなる。ウンコを捻り出す以上に腹部を、全身の筋肉を目いっぱい力を入れる。


「ッッッ!!」


 草原の草を踏み潰し、バキバキと地面にヒビが入り、更には両足部分の地が陥没。


「ッッン゛ン゛!!」


 バチバチと紫電を纏うと、脚先から脳天までの鱗が逆立ち、逆立った鱗から紫電の煙が薄く醸し出した。


(太陽に突っ込むなんてバカだ)


 突っ込んだとして太陽の熱にやられるんじゃないか。


(絶対に熱い……。鱗が溶け、瞼が破れ、眼球が蒸発し、全身丸焦げになるかもしれないッ)


 周囲の空気が震え小動物たちが逃げ回る今、そんな自問自答を繰り返す。


 でも、でもそんな自問自答は。


「届かないと意味ないだろうがあああああああッッ!!」


 ――――ッボッッッ!!!!


 一瞬でいなくなった紫の雷。可視化した紫色の衝撃波に遅れてけたたましい音が発生。同時に地面が瓦解し大きく崩れた。


「ッッ!!」


 凄まじい風。それを全身で感じながらも、眩しい太陽は燦々と輝き思わず目を瞑ってしまう。視界の端に見える地続きの世界。こちら側から向こう側へ空から侵入したしまう程にスピードが出ている。


「!?」


 飛んでいる一般通過翼竜が「マジかよこいつ」と言わんばかりに口を開けて驚いていた。それを視界に一瞬入れた俺はそれを気にせずグングン昇っていく。


(目ぇ瞑っててもクソ眩しい!!??)


 そんな時だった。


 ――――トプン。


「――」


 冷たい何かを体で感じたと同時に浮遊感。静かに水に入った様な音と、眩しかった太陽の光が一瞬で消えた。


(ッな、なんだ!?)


 慌てて目を開けると俺の知る空洞説世界が見えた。、いつの間にか体勢が変わっていた証拠。そして後ろを振り向くと――


「――?」


 太陽の姿は消え、渦が巻いている様なトンネルが広がっていた。


「うお!?」


 引力。まるで何かの引力に吸い寄せられる様にトンネルに落ちていく。後ろに流れていく渦巻きの景色。一瞬んで空洞説世界の光景は置き去りにし、俺は自由落下状態でトンネルを落ちた。


「マジでどうなってんだあああああああああ!?!?」


 このままどうなるのか。俺は生きて地上に行けるのか。それとも死ぬのか。そんな考えを手足をバタバタさせながら脳裏に過った。


 この謎の空間。ちっぽけな存在の俺ではどうにもできない程の圧巻。俺はただ叫ぶ事しかできないでいた。


 しかし体感数秒、数十秒、俺の視界はしだいに色を無くしていった。


 そして――


 ――――トプン。


「――うぉおああああああああ!? ――っぶへ!?」


 トンネルに入ったと同じような冷たい感触を感じると、重さのある浮遊感に変わり、そのままドサリと落下し倒れた。


「はぁ~~今度なんだ……ッ!?」


 起き上がるために着いた両手。確かな地面の感触で驚いてしまった。そのままバッと飛び起きるて上を見ると……。


「……月……だ」


 正確には月じゃない。前世で知っている月ではない。しかしそれに似た衛星が確かに空にはあった。


「……」スンスン


 それとニオイ。空洞説世界とは明らかに違うニオイ。むこうの世界と同じ美味しい空気だが、空気に何か混じっているのを感じる。


 見渡すとここは木々に囲まれた、水面に反射する月明かりが綺麗な湖畔だった。


「地上なのか……」


 定かではない。でも、俺の知らない様々な現実がそうだと言ってくる。


「ッ」


 ドクンと心臓が脈打った。それは嬉しさなのか、恐怖なのか、または違う何かなのか。だけどじいちゃんの言っていた事は本当だったんだと確信できた。


 故に。


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 来たんだと。


 地上に来たんだと。


 鳥肌めいたものが全身に駆け回り吼えた。


(じいちゃん! じいちゃんッ!! じいちゃんッッ!!!!)


 地上は本当にあったんだ! 前世では地上じゃなくてラ何とかってセリフだった。それを頭に過りながらも、主語なんて無いくらいじいちゃんを心の内で連呼した。


 そして今日は驚きの連続を迎える。


 ――ガサッ。


「!?」


 風も吹いていないのに木々の奥から草が擦れる音が聞こえた。今度はなんだと音の方を警戒していると、そいつらは確かな足取りで現れた。


「ブモ」


「ブオ。ブゴ」


「ブヅ。ブドゥ」


 第一村人ないし、二足歩行する大きな第一ブタ、第二ブタ、第三ブタが武器を携えて登場した。


 明らかに敵意を俺に向けている。


 そんな奴らに俺は。


「ど、どうも……」


 手を軽く振ってみせた。


「ブモオオオオオオオオ!!!!」


 怒りの形相で襲い掛かって来た。

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