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第10話 乙女チック

 ――ッドゴ!!


「ッ!?」


 覗かせた顔を岩陰に隠すと、真横の顔面位置が同じく爆ぜ、反射的に反対方向へ回避、つまりは岩陰から脱する形となった。


(攻撃が来るかッ!)


 感覚を、次に目、顔、体と、姿勢を低くしヒューマンに向けて警戒する。しかし岩を爆ぜさせる威力の攻撃が来る気配はない。


「ほぅ。初めて見るタイプのモンスター……」


 ――ブオン。


「……!?」


 魔術陣としか思えない赤い円状の物が右手に出現。それがスっと直線的に動くと装飾が着いたブレイドが出現。彼女は柄を握りながら俺を見た。


 攻撃は来ないが敵意はビンビンに発している。


「……お、俺に敵意はない」


 まずはファーストコンタクト。やはりというか、怪獣族はモンスターに似ている故向こうのファーストコンタクトは攻撃で始まったが、こっちは友好的にコンタクトを取りたいがために、ハッキリと俺の意志を言葉にして示す。


 すると何が珍しいのか彼女は驚いた顔をした。


「言葉を話すモンスター……」


 しかし驚いた顔は一瞬。すぐに俺を睨めつてきた。


「言葉を理解するモンスターはいるが、あまつさえ意思疎通と会話が成り立つ程の知性……。お前がスタンピードの首魁か」


(スタンピード……?)


 彼女が驚いている事と警戒していることはわかる。だけどもピンとこないワードがあり俺は理解に苦しむ。


 だからこそ明確な意思表示。


「ごめんなさい。あなたが言っている事がわからない。でも俺に敵意がないのは理解してほしい」


 そして続けて。


「俺はジンガ。ジンガって名前です」


「……」


「俺は怪獣族の……おそらくは最後の生き残りです」


「怪獣族……?」


 誠心誠意。彼女の眼を見ながら名のり、モンスターではなく怪獣族だと誤解無きように言った。


 するとキョトンとした顔をしたと思ったら――


「――ッアハハハハ!!」


 大きな声で彼女は笑った。


(なんで笑うん?)


 腰に手を置いてガハハと笑う姿。綺麗な容姿からは想像できない笑い方に、俺は若干引いた。


 そして笑う度に大きな胸部がポヨンポヨンと弾むから、とっても目のやり場に困る。


 つか服を着て欲しい……普通に……。


「ックッフッフ! ジンガと名乗ったと思ったら次は怪獣族だと? 知性が着いたモンスターにジョークの才能があったとは驚きだ」


「あの、ジョークじゃないんですけど……」


 誠心誠意モンスターじゃないと説明してもモンスター扱いされたらもう何も言えないじゃないか……。


「しかしやはりモンスター。私を油断させるために200年も前に居た怪獣族だと名乗るとは悪手だな」


「!」


 美人が睨むと怖いと前世では言っていたがそれが本当だとは。だけども重要なのはそこじゃない。怪獣族の存在を認知してくれていることに、俺は感動を覚えた。


 だけども誤解を解くのが先。


「お、俺はジンガです! マジの怪獣族なんで――」


 ――――ッドゴ!!


「問答無用ッ!!」


「――」


 俺の言葉を遮り一瞬で急接近。距離を縮めてきた彼女は得物のブレイドを俺に斬りつけて来たが、肉薄する一瞬を回避。


 空ぶった剣撃の威力が凄まじいのか、俺が立ってた場所に剣筋の亀裂が走った。


 縦横斜めと斬りつける剣撃。肉薄しながらもそれらを後退しながら最小限の動きで回避。斬りつけられた地面は爆ぜ、振るった剣圧で木々がバキバキと斬られ、川の水が飛沫を上げて空中に舞う。


(私の攻撃をこうも避け切るとは中々やるッ!! やはりスタンピードの首魁としか考えられないッ!!)


(初めての対人戦ッ!! なんで空中斬るだけで周りが爆ぜるんだよッ!?)


 攻撃を受ければひとたまりもない。それが可視化した現実に俺はジワリと背中に汗をかいた。


「ッゼイ!!」


「ック!」


 大振りの薙ぎ払い攻撃。それを彼女の頭上を通る様に跳躍して避けると、薙ぎ払った剣撃が衝撃波を生み崖岩と木々を粉々にしているのを見た。


(剣で岩爆ぜるものなのッ!? これが地上のベーシックな攻撃力なのか!?)


 剣は斬る突く払うものだと思っていたが、叩っ斬ることや衝撃波で攻撃している光景に、ここが魔術があるファンタジーな世界だと再認識させられた。


(怖い剣だったら折ってしまえば!!)


 縦に斬る剣。それを背中を向けて横に避けつつ刀身の表面に向け裏拳を合わせた。これで折る。


「――」


 刹那、俺の意図を知っていたのか刀身を一瞬にして回転し刃を拳に合わせて来た。

 すぐさま裏拳を止め、薙ぎ払われた攻撃をギリギリに避けれた。


 薙ぎ払った衝撃で後ろの岩が爆ぜる音を聞いた瞬間。


「ッハ!!」


「ッ」


 まさかの回し蹴りが放たれ俺は腕をクロスしてガード。ギチっと鱗で防御する鈍い音。


(硬いッ!? まるでオリハルコンを蹴った様な感覚ッ!!)


 鱗を貫通し両腕が痺れる程の凄まじい回し蹴りの威力。その力の一点を受けた俺は大きく吹っ飛ばされ、すぐさま両足でブレーキ。彼女の威力は地面と小石を裂いたブレーキ跡が物語る。


「……?」


 怒涛の連撃。川が流れる静かな場所だったここが、今では木々が倒れ岩が砕け、川の幅が広がっている始末。


 そんな状況で更なる連撃を警戒して彼女の様子を伺っていると、刺す様な敵意は無くなり剣を持つ手が下がっていた。しかし警戒を解いている訳ではなく、得物のブレイドを正面に置いた姿勢だった。


「……ジンガと言ったか。なぜ反撃してこない。怪獣族などと妙な嘘までついて私の油断を誘う知性を持ち、私の剣を避けるセンス、強靭な防御力も持ちながら何故反撃してこない」


 我は問う。その言葉が顔に出ている彼女。本当に何故だと思っていると思う。だからこそクロスした腕を解いた。


「嘘じゃないです。本当に怪獣族なんです……」


「まだ言うか!」


「まだも何も事実しか言えないですよ! 現にあなたには攻撃していない……! 俺が知性を持つモンスターなら肉薄した時点で暴れてるハズですよ!」


「しかし!!」


「何故反撃してこないってあなたが言った言葉ですよ! モンスターなら攻撃してくると! 裏返すと反撃してこないから少しでも怪獣族の可能性が見えたって事じゃないですか!!」


「ッ!?」


 苦虫を噛んだような表情で俺を睨む彼女。どうやら図星なようだ。


「剣を収めてください。話し合いでお互いを知りましょう」


「近寄るなモンスター!!」


「……わかりました。姿が問題なら、たぶん解決できます」


 剣を前にして睨んで来る彼女。警戒を解くため俺は股間からアイテム袋を取り出した。


(……アイテム袋をだと?)


 袋から指輪を取り出すと、俺はスッと指輪を指にはめた。


 ――ッボン!


「……これでどうですか」


 真顔で彼女を見ると、あっけらかんとしていた。


「ヒューマンだと……?」


 そして数秒微動だにしない彼女。みるみるうちに顔を赤らめると。


「み、見るなあああああああ!! 私の裸を見るなあああああああああああ!!」


 堂々としていた格好から早変わり。自分の体を両手で押さえてうずくまり、いきなり乙女チックに恥ずかしがった。


「えぇぇ……」


 もはや白い目でしか見えれない……。

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