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第11話 ガブリエラ

 眼を瞑ると思い出す。


 剣を振るう度にブルンブルンと揺れるたわわに実ったおっぱいが。


 前世の俺は所に言う巨乳好きである。ネットのR18サイトでの購入動画はもっぱら巨乳物であり、味辺で貧乳物も購入している変態だ。


 そんな俺は転生して怪獣族に生っても巨乳好きなのは変わらないと自覚した。いや、正確には前世の俺に引きずられている感がある。


 今までじいちゃんと二人きりで女子なんていなかった。そんな俺が前世の影響で性欲に目覚めるなんて誰が思っただろう……。


 股間がムズムズするのは何故だと眼を瞑り考えた。確かに前世の影響はあるが、本能的な部分、それこそ怪獣族が俺一人となった現実と股間が、子孫繁栄に舵を切った模様。


 でも俺は理性的でいたい。気が狂い誰彼構わず生殖活動してしまう羽目になる空洞説世界命からがらから脱したんだ。マラ筋……おっと、一本筋の通った雄に俺はなりたい。


 そして現在俺は指輪の魔術で人間に化けている。その状態で後ろを向き目を瞑っている。


 その答えは。


「もういいぞ」


「……」


 振り返り目にした彼女故だ。


 全裸だった状態から物の数秒で細身の鎧を着た彼女。振り返った一瞬に見えた頭上に消えた魔術陣。それの成す技で着替えた模様。


 燃える様な長い赤髪を手で払いほぐす彼女。


「そう言えば名乗っていなかったな。私はユーゼウス王国騎士団団長が一人、ガブリエラ・フェルグランドだ」


 赤髪の彼女――ガブリエラさんはキリッとした表情で自らを名乗った。


 鼻の筋が通った美形な顔。二重に長いまつ毛、眼も大きくてかなりの美人だ。

 そして細身の鎧だが、抜群のプロポーションを誇るガブリエラさんの体に沿う様に纏われているため、出るところは出ている不思議な鎧と化している。


「よろしくお願いしますガブリエラさん。改めて、俺はジンガです。ただのジンガ。今はヒューマンの姿ですけど、本来の姿は怪獣族です」


「あ、ああ。よろしく……」


 よろしくと言いながらも、どこか怪訝な表情を俺に向けるガブリエラさん。


「何か質問がありそうな顔ですね。俺の方もガブリエラさんに質問したいことがあるんですけど、お先にどうぞ」


 お、おう。と妙にたどたどしく返事したガブリエラさん。左手で後頭部を掻いたと思ったら、目を合わせて来た。


「お前は……ジンガは本当に怪獣族なのか……? これでも魔術を看破する慧眼を習得しているが、変装の魔術だろうが特有の揺らぎが無く本当にヒューマン族にしか見えない……。というか、東邦のヒューマンにしか見えん。そして先ほどの怪獣族の姿とヒューマンの姿に違和感のそん色はない……。その魔道具はどこで手に入れた」


 怪訝な表情の正体。それはこのヒューマン族の姿だった。ガブリエラさんの言葉から読み取るに、魔術での変装はあるが俺の変装は特有の揺らぎが無くて変だ。この指輪の出どころを知りたい様子。


「このアイテム袋と指輪は、死んだじいちゃんが俺に残してくれた物です」


 脳裏にじいちゃんの笑顔がフラッシュバックした。


「昔、一部の怪獣族はこの指輪をして他の種族たちと交流していたと、じいちゃんから教わりました。ガブリエラさんが言う揺らぎ? は俺にはわからないです」


「……そうか」


 たった一言だけ呟いて、ガブリエラさんは納得してくれた様子だった。少しだけ目を伏せた表情をしたから、きっといろいろ気を遣ってくれたと思う。


「それとだ――」


 それから怪獣族の姿に戻ったりヒューマンの姿に成ったり、どこから来たのか、何をしていたのか等々諸々聞かれ答えた。


 気付けば焚火を囲んでお互い岩に座っていた。


「すべてが地続きの空洞説世界……。聞いた事のない場所だな……」


「俺が勝手にそう呼んでるだけで、本来の場所の名は知らないです」


 美人の悩む姿は本当に絵になる。顎に指を当ててるだけなのに……。それと凛とした声がふつくしくてヤバイ。できるお姉さん感半端ない。


「……ふむ。学者にでも聞いた方がいいな」


 そう結論付けたガブリエラさん。次は俺の番。


「あのぉ、俺地上に出たばっかりで知らない事だらけなんですけど……いろいろ教えて欲しいです」


「いろいろ?」


「はい。まずはガブリエラさんが団長してるユーゼウス王国について教えて欲しいです」


「詳しい歴史を全部言える訳じゃ無いが、一般的な話なら」


「お願いします」


 ユーゼウス王国。ヒューマンが主に統治し、エルフやドワーフ、妖精や魔族といった他種族も暮らす、大陸の北西に位置する大国。


 昔々の建国の話は省かれたけど、この世界のどこの国よりも多種多様な種族が住んでいて、気候も穏やかでモンスターの強さも比較的弱く、伸び伸びとした領地を持っている。


 現ユーゼウス王国の王――ユリウス・ユーゼウス十六世は賢王であり、過去に争っていた他国との関係も改善し、大陸一豊かな国へと発展した。


「色んなギルドがあるが、我がユーゼウス王国は冒険者ギルドが栄えているのが特徴だ」


「冒険者ギルド……!?」


「冒険者ギルドというのは――」


「採取からモンスター退治まえ色んな依頼をこなして報酬を得る奴ですよね!!」


「か、簡単に言えばそうだ……。そういうのは知っているんだな」


「な、なんとなくですよ! 言葉の響きでピンときました!」


「そうか」


 冒険者ギルドと聞いた瞬間、本当に異世界ファンタジーだと思い興奮してしまった。つらつらと冒険者ギルドとは何ぞやを触りだけの正解を言葉にしてしまった結果、ガブリエラさんは疑いの顔に。まさか前世が~~なんて言える訳ないし、その場しのぎで事なきを得た。


「栄華を誇っているユーゼウス王国だが、今現在、深刻な王国滅亡の危機に瀕している」


「滅亡……」


「ああ」


 ガブリエラさんは真剣な表情でこう言った。


「かつて別大陸の大国を滅ぼしたという、モンスターの超発生――"スタンピード"だ」


「スタンピード……」


 どうやらとんでもない時に地上へ来たっぽい。

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