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第12話 作戦

 それの始まりは二カ月ほど前のことだった。


 ユーゼウス王国が統治している最南端にある村。その村は穀物をはじめとした農業が盛んであり、辺境から王都まで幅広く穀物を含む野菜やイモを販売していた。


 しかしある時期、その村から収穫まじかの穀物とイモが何者かに盗まれる事態が生じた。


 現場検証の結果、多数の小さな足跡からゴブリンの仕業だと判明。村はすぐさま近場のギルドにゴブリンが潜んでいる森と住処の調査討伐をクエスト依頼。それを受けギルドは冒険者チームを派遣し、調査した。


 討伐依頼は危険が付きまとう故に、たとえ低級のモンスター相手でも万全な準備をして行くのがベターでありそれが冒険者の心得である。此度の冒険者チームもそれに習い、準備をしたうえで調査討伐に向かった。


 クエストの成果もあってか村にゴブリンが現れることはなくなったが、五日経っても冒険者チームは誰一人として帰還する者はいなかった。


 派遣された冒険者チームは少しは名の知れたチームであり、クエスト成功率に定評のあるギルド長一押しのチームだった。そのチームが何の音さたもなく帰ってこないとなると、文字通り最悪な想定を頭に過ざるえない。


 そこでギルドはゴブリンの調査討伐兼、冒険者チームの捜索を名目に再度派遣。次に遣わされたのはギルドが誇る高ランクチームであった。


 後は依頼の報告を待つだけ。最悪の想定を考えつつも日々の日常業務をこなしていると翌日には通達。


"村の壊滅及びモンスターの大集団が森の奥に集っている"


 激震。


 文字通り最悪な報告が通達された。


 空を飛び陸を闊歩する多種多様なモンスター集団。未開の地である樹海の奥深くから這い出たモンスターたちは食料を求め、ついには村を襲撃。


 食料の穀物はおろか、村に住む住民を逃げおおせた一握りを置いてすべて殺害、または慰み者にし殺した。一晩の出来事である。


 派遣されたチームの証言と生き残った住民の証言もあり、ギルドは大急ぎで王国ギルドに報告。王の勅命により周辺地域の村や街は一斉に王都へと避難。


 避難が済んだ半日後、類を見ない程のモンスターの集団が確認。


 ユリウス・ユーゼウス十六世は即位以来の未曾有の危機とし、この大集団を古来の文献にある通り"スタンピード"と改め、他国の応援要請を促し王国総出でこれを解決する事となった。


「そしてここ、王国南の大平原地周辺を戦場とし、スタンピード撃滅作戦が開始された」


「……すみません。ちょっと情報が多すぎて混乱してます」


「地上に出てきた矢先が戦場だったなら当然だな。ほら、水でも飲め」


「ありがとうございます。……ンク」


 差し出された革の水筒を傾け、水を飲んだ。


 今現在、モンスターの集団であるスタンピードのによってユーゼウス王国の危機だとわかった。崖の上でモンスター集団に遭遇しまくっていた理由も把握した。


 しかし、腑に落ちないところがある。


「ふぅ……。あの、ガブリエラさんは何でここで水浴びしてたんですか? スタンピード撃滅作戦なら戦場のニオイとか、阿鼻叫喚があるハズ。そもそも作戦だからガブリエラさん一人はおかしいじゃないですか」


 そう。これは国を挙げての大作戦。ヒューマンやエルフ、ドワーフとかズラっと隊列を組みモンスター集団とかち合う想像ができる。でも目の前のガブリエラさんを見るにとても作戦しているとは思えない。


 そんな俺の質問に、ガブリエラさんは得意げな顔をした。


「何もおかしくはないぞ。これも作戦だ」


「これも作戦……。偵察とかですか」


 俺の予想に横に首を振るガブリエラさん。


「私に課せられた任務は二つ」


 指をピース。


「突っ込んで暴れ回り」


 人差し指がピクピクと動き。


「イイ感じのところで帰って来る。だ」


 中指をピクピクした。


「作戦どおりモンスターの集団を見かけては暴れ回っていたが、気づけば戦場端のこんな崖下まで来てしまい一晩焚火をした。そしてジンガに出会った訳だ」


 そして俺は真顔でガブリエラさんを見た。何言ってんだこの人と。それは作戦じゃなくて無謀だと。頭がおかしいと。ユーゼウス王国の作戦考えた人おかしいと。マジで思った。


 そんな事を思った俺は優しい目をしてガブリエラさんを見た。


「ガブリエラさん。泣きたかったら泣いてもいいですよ」


「……泣く?」


「いじめって良くないですよね……」


「?」


 異世界でもいじめはあるらしい。騎士団団長派閥とかのいざこざと考えるのが一つ目か。容姿の良いガブリエラさんを妬む人や陥れようとしてる人の仕業に違いない。


「何か勘違いしてないか?」


「え?」


「私は別にいじめに合ってる訳じゃないぞ。むしろ作戦参謀を泣かせる程いじめる壊し屋と言われている」


「壊し屋?」


 妙に自慢げに話すガブリエラさん。


「せっかく考えた作戦を台無しにするからそう言われている!」


「ッ!?」


 不意に気配。川を挟んだ向こう側の暗がりに、怪しく開く無数の眼が俺たちを見ていた。明らかなモンスターの気配。


 そして立ち上がったガブリエラさんはブレイドを下から上へと薙ぎ払うと――


「もちろん良い意味で!」


 ――ッドワオ!!


 地面を抉る可視化した大きな斬撃が森の木々諸共モンスターを木端微塵にした。


 明らかに俺と対峙していた時よりも凄まじい攻撃力。何となく察した。作戦参謀さんが泣いているのは、きっとガブリエラさんが一人で倒してしまうからだと。


 そう思っていると。


「ッ!?」


 不意に轟音。空を見上げると大量の火球が通過していた。


「スゲぇ……」


「どうやら向こうの作戦が再開されたようだな」


 火球の正体は作戦の一部だった模様。


「私はこれから暴れるという作戦を実行する。火球を放った方向に向かうとヒューマンやエルフに会えるだろう。ジンガならモンスター相手でも問題ないだろうが、要人に越したことはない」


「そっちに向かえと」


「念のためにな。あ、その姿のままだぞ」


 っじゃ! っと俺に手で会釈したガブリエラさんはそのまま森の中へと消えて行った。


「……とりあえず、向かうかぁ」


 空に降り注ぐ大量の火球を見ながらそう呟いた。

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