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第13話 視線

 晴れていた空は昼を回ると曇り空に変わった。


 人とモンスターがぶつかり合い、魔術から発動される火焔とモンスターの火球がぶつかり爆ぜる。


 水を浴びさせ、岩をぶつけ、雷を落とし、氷で裂傷させる。


 剣で斬り、ハンマーで潰し、モーニングスターで壊し、槍で突き、鞭をしならせて叩く。


 火のニオイ。生き物が焼けるニオイ。戦いのニオイ。殺し合いのニオイ。


 俺が立つ小高い丘のここからでも、戦のニオイを感じづにはいられない。


「……戦争やってる。……生きるか死ぬかのガチンコで勝負してる」


 耳にするのは魔術陣から放たれた数々の攻撃の雨あられ。それにやられたモンスターの悲鳴や、逆にモンスターにやられた人の断末摩が一挙に合わさった音が聞こえてくる。


 小さな豆粒が密集し列を成し、もう片方の密集とぶつかり合う様は儚くも悲しい波の様だ。


 そして数える事すら億劫なほどに無数に展開された魔術陣は、何の感情も無いままに業火や氷塊、稲妻や可視化した風の衝撃波をモンスターに浴びせている。


 昨日の夜の静けさは何だったのか……。


「――ッグギイィイイイイ!!」


 そう思いながら空から急降下して襲ってくる鳥形モンスターを見据えた。


 大きさは俺と同じ程度か。おおよそ前世や空洞説世界で聞かない鳥型モンスターとは思えない奇声はまさに怪鳥。大きなかぎ爪が俺を掴もうとした。


「フン!」


「グギィ!?」


 怪鳥のかぎ爪攻撃をヒョイと避け、俺を掴もうとした脚を掴みそのまま怪鳥を地面に叩きつけた。


 怪鳥の羽が飛び散るほどに地面に叩きつけた結果、地面は砕け陥没。怪鳥も白目をむいて死んだ。


「ッグギイィイイイイ!?」


「ッグギイイイイ!! ギィ!?」


「ギィイイイ!!」


 空を覆う様に控えていた同種の怪鳥たちは、衝撃的な仲間のやられ方を見て驚いたものの、仇と言わんばかりに三体同時に仕掛けてきた。


「っほ!」


 白目を向いた怪鳥を真ん中に陣取っている怪鳥に向け投げる。


 ファサッと抜け落ちた羽が俺の頬を撫でたと同時に、怪鳥アタックが見事に命中。文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いと言わんばかりに真ん中の怪鳥は力なく崖に落下。


 左右に残った怪鳥は鋭利なくちばしを突き立てて果敢にも猛進。攻撃が外れれば一溜りもない。なりふり構わない捨て身とも言える特攻に、俺は正面を切って迎え撃つ。


 事は簡単。


 同時に攻撃して来た怪鳥のくちばしをッガシ!! と両手で捕獲。さっきの同じくそのまま地面に向けて叩きつけ。


 ――ッドン!!


 白目を向かせた。


「向かってこなければ死なずに済んだものを……」


 そう言いながら絶賛戦場の空を飛ぶ同種の怪鳥に向けて投擲。見事命中した。そしてその上を魔術陣から発射された火球の雨あられが、低い音を立てて通過。一体、また一体と火球のに怪獣たちが飲み込まれる。


「凄いなぁ……」


 魔術という概念。前世の地球じゃ物語でしかない架空の概念が、今まさに行使されている。


 何だろう……。高揚している、心が躍っているのは所に言う"厨二心がくすぐられる"に近い。いや、それだ。


「心躍るのはいいけど、これはこれで気を付けないと……」


 俺は自分の腕、怪獣族の腕を見ながらそう言った。


 指輪の効力ヒューマンに擬態しているが、ある程度力むと力んだ部分の擬態が元に戻る。じいちゃんはそんな注釈言ってなかったけど、力まないとヒューマンの腕に見えるから今は問題ない。気を付ければいいだけだ。


「……激しい攻撃だ」


 ワーワーと聞こえる戦場の音は最早合戦。鼓舞した色んな種族がモンスターを蹴散らしているのがわかる。


 ――ヒュゥゥウウウ!! ッドワム!!


 近くに大きな火球の一つが木々を薙ぎ倒して落下。巻き込まれた怪鳥やブタモンスターたちは一溜りもなく消し炭に。余波が熱風として俺の頬を撫でた。


 そんな熱風の奥を見ると、可視化した大きな斬撃が地面と周辺を切り刻んでいた。


「ガブリエラさんだ……」


 地面が上空まで爆ぜる強大な斬撃は丘から見ても凄まじい。一秒一秒、丁寧に丁寧、リズムゲームみたいに斬撃でモンスター集団を倒している。


「モンスター倒してるか地形変えてるか分からなくなる……」


 そんな時だった。


「――ッッ~~!?!?」


 不意に視線。


 それは戦場の大草原から荒野まで埋め尽くすモンスター軍団の奥の更に奥。そこから気配を感じた。


(明らかに俺を意識している……。俺に敵意を向けている……)


 今の俺はヒューマンだ。スタンピードが発生する程にヒューマンやエルフを殺したがっているから、明確な敵意を向けているのはわかる。でもなぜだろうか……。鋭い視線は俺の鱗の芯がピリついているほどに、怪獣族としての俺を意識しているとしか思えない。


(直感がそう言ってる……。どうする……。このままユーゼウス王国の軍隊に向かうのが吉だが、どうしても視線が気になる……)


 モンスター軍団の中を搔い潜って軍隊に合流する。当然容易な事じゃないが、一苦労かけても絶対に向かうべきだ。


 でも、今スタンピードの真っ盛り。そんなスタンピードの奥の奥から俺を誘う視線を感じては、おちおちチン〇ンを振り回しながらヒューマンの仲間入りなんて到底無理だ。


「……よし。よっと!!」


 ッボフ!! と指輪を外して元の怪獣族に。指輪とアイテム袋を収めると、俺は視線に向かって大きく跳躍した。

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