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第15話 神の使徒?

 前世の世界は電気――つまりは科学が発展した世界だ。


 もちろんアノマロカリスが生きた古生代カンブリア紀、そこから恐竜が生きたジュラ紀。そして遥かに時間が過ぎ、ホモサピエンスを経てヒトが生まれた。


 知恵を持つヒトは色んな争いを経験し、学習し、二十一世紀を前世の俺は生きていた。


 そしてそこでアホなことをしてお亡くなりになり、この世界に怪獣族として転生した訳だ。


 つまりは何が言いたいか。


 前世と現世。現代とファンタジー。二つの世界を生きた俺は、目の前のクリスタル体の奴が非常に歪に見えると思い、思考を巡らせた。


 異質。あまりにも異質。


 この世界に棲む知性がある種族とか、跋扈している、又は暴れているモンスターとか、そんなを真っ向から反している存在に見える。いや、俺の本能がそう告げている。


 だからだろうか。


 いや。


 だからこそだろう。


「――神の使徒」


 自然と口に出した言葉に、少なからず自分で驚いた。


 瞬間――


「ッ!!」


 光。


 条件反射的に体を逸らすと、ちょうど心臓部分にあたる位置にピンク色のビームが通過。


 大気を焦がしながら放たれそれは、俺の後ろで積み上がったモンスターの山をいとも簡単に貫通。文字通り風穴を空けた。


 奴の頭部が一瞬光った途端、頭部のクリスタルから超速度でビームが放たれた。


(アレを貰うとマズイッ!!)


 そう思いながら奴を睨みつけた。


 一撃。たった一撃で俺の本能が警告を発した。その事実にブワリと汗が噴き出る。


 ――ディン! ディン! ディン!!


「!?」


 放たれるビーム。腕をだらりとした自然体のフォームから、ノーモーションの頭部ビーム攻撃。


 的確に心臓を狙う圧倒的精密な射撃に驚愕するも、横に、下に、斜めと、俺は最小限の動きでビーム攻撃を避ける。


 何度も何度も、丁寧に丁寧に、まるで作業の様にビームを撃つクリスタル体。俺が避ける度に後ろや下にあるモンスターの焼け焦げたニオイが鼻につく。


 明らかに俺を殺しに来ている。その事実だけじゃない。こいつはスタンピードを起こした元凶と思える発言もしている。


 ならばこいつを倒せばスタンピードは終わるかもしれない。


 後ろの洞窟からポツポツとモンスターが湧き始めている今、早急にクリスタル体を破壊するしかない。


 ――ディン。


 そしてもう一つ。


(そっちがその気なら俺だってッ!!)


 こいつが神の使徒ならば、怪獣族の弔い合戦に血を沸かせるに十分だ。


「ッ!!」


 ッボ!! と鈍い音が響いたのは俺が潰し積み上げったモンスターの山をキックで蹴ったからだ。


 ビームを撃つ一定の合間。それを狙い蹴った。


 衝撃は大きく広がり空に上がる花火の様にモンスターたちが破裂。クリスタル体を襲う様に散らばった。


 ビームの一発は予想通り俺の位置に撃って来た。しかし空気を震わせる音は聞こえるが二発目は俺に向かずにあらぬ方向に撃っている。どうやら目くらましとしてこの蹴りは正解な模様。


「――」


 目くらましを上手く使いすぐさま接近。クリスタル体がだらりとした体勢から腰を据えた臨戦態勢になっているのを、落ちて来るモンスターの隙間から見えた。


「ッ」


 瞬足。


 パラパラと落ちて来るモンスターの花火を迂回。直角に曲がり右側面へ。


 拳を握り込み、紫電も帯電。


(一発で終わらせるッ!!)


 音を超える速さで接近し跳躍した俺は、ビーム発射をしているクリスタル体の顔面を捉えた。


「――」


 一瞬、顔面の内側にある光が俺を見た。


「――ッ!!」


 ――ッドッッッ!!!!


 可視化した衝撃波が一体に波及。


 殴り貫ぬいた拳。


 砕けるクリスタル体の顔。


 その破片が俺の頬を撫でる。


 だがしかし、事は簡単ではなかった。


「――――」


 顔が砕けたのに、待っていましたと言わんばかりに俺の右手をクリスタル体の左手が掴んだ。


 一体何が。そんな思考すら許されないと、奴は左手だけで俺を掴んで持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。


「ッガ!?」


 一瞬の浮遊感。そこから急落下し体の芯に響く程の衝撃。痛みで片目だけ開けていた俺は大きく陥没した地面を見た途端。


抹消デリート


 ――ッボ!!


「ッグ!?」


 空間が一瞬歪む程の衝撃を生む蹴りを横腹に受け、俺は脳に伝達する痛みに耐えながらブッ飛ばされた。


 一度二度。慣性に従い俺が潰したモンスターを緩衝材にして落下を緩急。


「――ッゴフ!?」


 膝を付けて何とか立ち上がるも、少しだけ吐血した。


 今まで俺より大きなモンスターを相手してきたが、吐血なんて初めての経験。それに驚きつつも、やはりクリスタル体は"神の使徒"の線が濃厚だとわかった。


抹消デリート抹消デリート抹消デリート


「ハア、ハア、ック。OKOKぇ。第二ラウンドだ……」


 顔のない壊れた機械みたいな挙動をするクリスタル体に、そう啖呵を切った。

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