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第16話 形態変化

「――スピア


 第二ラウンド。顔のない状態で奴の声が響くと、先に動いたのはクリスタル体だった。三本指のクリスタルの手を一つにし、鋭く鋭利な一本の槍へと変化させた。


 顔が無いのに奴の眼がこっちを向いている。そう思わせるには十分な殺意を感じられた。


「――!」


 瞬間、クリスタル体は細長い脚の先端で地面を蹴った途端、俺に急接近。蹴られた場所が奴のクリスタルと同じ色の結晶がピキピキと音をたてて生まれた。


 それを眼にしすぐに奴へと眼を配らせる。


(速いッ!)


 そこそこ距離が離れていたが、気づけばすぐそこまで迫っていた。


 奴の武器は右手の槍。


(突いてくるかッ)


 当然の読み。顔、胸、腹、脚を突いて来ると読み。蹴った地面から結晶が生まれているのを加味すると、攻撃を受けた場所に結晶を植え付けられるとも予想。


 しかし杞憂。それは杞憂。


 いや、正確には読みを間違えた。


 突くために引いた腕を解き、大きく上に振りかぶった。


「!!」


「ッ!?」


 縦一閃。突き攻撃を中断し、まさかの上からの斬撃を繰り出してきた。驚いたものの回避が間に合い槍が空を斬る。


 ――ッブオン!


 避けたと同時に聞こえた微かな音。それはまるで空を飛ぶ虫の羽音を何重にも同時に出した音の様だった。


(――振動かッ!! 奴の槍は振動しているッ)


 何の変哲もないみすぼらしい剣や、手ごろサイズの筒から生まれる光の剣。漫画やアニメでよくあるそれらは超振動で易々と色んな物を斬ってみせた。


 その知識があったからこその予想。そしてそんな予想をしている暇があるのかと、クリスタル体は再度クリスタルでできた槍を振りかざしてきた。


「!」


「ッ」


 頭、喉、胸と、視線の無い明確な殺意が超振動する攻撃が襲ってくる。


 俺の鱗ならこんな振動なんて……。そんなおこがましい上から目線なんて一切信用ならない。何故ならば、こいつは怪獣族を滅ぼす一歩手前まで追い詰めた"神の使徒"の可能性が高いからだ。


「ッ」


 俺を殺そうとブンブンと槍が振るわれるたびに、軌跡を描く様に大気が結晶化して地面に落ちる。その光景を視界に入れ認識すれば、なおのこと攻撃なんて当たってやれない。


 そして避けてばかりだと一向に勝てない。ならば俺からも攻撃を。


 寸でで避け、体を逸らして避け、地を這う様に避ける。そうして虎視眈々と奴の隙を伺った結果。


 ――ッッブオン!


 あえて見せた俺の隙。そこを突く様に大きく振りかぶり体勢が崩れる程の威力で振り下ろした。


(ッ今だ!!)


 紫電を纏わせた強く握った拳。


 ――ッボクゥッッ!!


「!?!?」


 それを胴のクリスタルに突き刺すと、奴の体は九の字に曲がり、パリパリと細かく砕けたクリスタルの破片が俺の腕を撫でる。


「ッオラ゛アア!!」


「!?!?!?」


 紫電を纏う脚で回し蹴り。右腕の槍を巻き込みながら奴の胴体を強打。


 バチッ! と雷もおまけで追撃させた結果、クリスタルが砕ける音を響かせながら吹き飛ぶクリスタル体。攻撃を喰らさせた確かな感触が俺に伝わる。


 そして崖の岩肌に激突した瞬間、崖の一部が大きな音を立てて崩壊。岩と砂埃が奴を包み、視認性を著しく低下させた。


(当然――)


 これで終わりなわけない。確かに俺の攻撃は奴の体の一部を砕いた。でも顔が砕けても動けた奴だから体の一部が砕けただけで止まるとは思えない。


 そしてその予想は当たる。


「――ギギ――ギギギ――――ギィイイイ!!!!」


 異音。


 黒板に爪を立てそれを掻く様な、それは間違いなく奴から出た音。そして晴れていく砂埃から見えた先端は尖っていた。


 その尖りは角。鋭利な角。ヒューマンと同じく二足歩行だったクリスタル体が、変体を経て四つ足歩行に。顔が無いからか胴体からそのまま角が伸びている状態。まるで角に脚が付いている歪さ。


(変身もお手の物ってか……ッ)


 睨みを利かせた次の瞬間。


 ――ッドワッッ!!


「ッ!?」


 ビーム。


 先端からノーモーションのビームが発射。考えるより先に体が動き、背中が地面に着きそうな程に反ってビームを避けた。


 脚の力だけで起き上がると、自慢の角を突き刺したいと奴が既に猛スピードで走って来ていた。


 しかも前世のチーターみたいに"前脚を引いてから後ろ足で蹴る"みたいな普通の動きではなく、四つ足がそれぞれ別のタイミングで動いて走っている所謂いわゆるキモさを感じる。


 ――ディン! ――ディン!


 しかもビームを乱射しながら突進してくる始末。動きは二足歩行の時よりのっそり遅い癖に、ビーム乱射で牽制するのマジで性格悪い。


「ッあっぶね!? ――ん!?」


 襲い来るビームを避けていると、視界の端には洞窟から出てきたモンスターの集団が見えた。


 ビームを乱射してキモイ走り方で襲い来るクリスタル体のバケモノ。


 鳥型、獣型、二足歩行型と多種多様な軍団で迫るモンスターたち。


「ックソ!!」


 前方と後方からくる圧と敵意。クリスタル体との戦いを長引かせばいづれはこうなっていたと知りつつも苦戦。元々分の悪い戦いだったのが案の定更に分が悪くなる。


(どうする……。クリスタル体の形態は動きは鈍いがビームが厄介。そして後ろは数に物を言わせて襲い掛かって来る……)


 刹那の思考。広範囲攻撃のハウリングで対処するという選択肢もあるが、ビームが俺を襲う限りそんな悠長な事している暇はない。


 どうする。どうする。どうする。


 そんな思考が巡っていると――


「――ハアアアアアアアアア!!!!」


 ――ッドワオ!!


 叫び声と共に可視化した斬撃がモンスターたちを蹴散らした。


 なにが起こった。


 その正体は上空から降りスタッと俺の真後ろで着地した。


「苦戦している様だな!! ジンガ!!」


「ガブリエラさん!?」


 赤い長髪をなびかせ、体のラインに沿った鎧を着こんだバーサーカー。ガブリエラさんが登場した。


「いろいろと聞きたい事があるが、先ずはこいつらだ! モンスターの方は任せろ!! そっちは任せるぞ!」


「はいッ!!」


 背中合わせの会話。


 俺はクリスタル体へ。ガブリエラさんはモンスターへ。俺たちは同じタイミングで駆けだした。

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