私――ガブリエラ・フェルグランドは、ユーゼウス王国騎士団団長の一人だ。率いる部隊はユーゼウス王国第三部隊。五つある部隊だが、私が率いる部隊が最強だと自負していて、隊長の中でも紅一点である私自身が最強の名を欲しいがままにしている。
当然すべての部隊は男社会。序列が物を言う世界だ。そんな中、女の私がメキメキと実力を伸ばした結果。
「ガブリエラ・フェルグランド。お前最近調子に乗ってるなぁ? 民草から成りあがったか知らないが、所詮はエルフの姫と仲が良くて実力無視で成りあがっただけなんだろぉ? 舐めやがって……」
日々のトレーニングで汗を流し、訓練の痛みを耐え、実戦で血を流した。そんな優秀なユーゼウス王国の一般兵のプライドが、男社会にポッと出た女の私にいい思いをするはずもない。
故に。
「ッハ!!」
「ッブヘラ!?!?」
部隊員同士のいざこざを潔く解消するための
「……ックソ」
「悪態をつく暇があるなら精進するんだな」
私と決闘し、負けた彼は貴族の出だった。綺麗なブロンドの髪をしていて、キノコの傘の様な特徴的な髪型がトレードマークだ。実力もさることながら、嫌味を好む嫌な奴でもある。
「大層ぶって負けちゃぁ世話ないぜ」
「ふん。やっぱり貴族は口だけの奴なんだよ」
「……ッ」
そんな彼が女の私に負けたとなると、嘲笑の的になるのは目に見えていた。
だからこそ。
「おい。決闘に負けたら勝者の言うことを一つだけ受ける約束だな」
「ッあ、ああ。だが無理難題は無効だぞ」
「分かっている。なに、簡単な事だ。お前、私の下に着け」
「……は?」
それから私は派遣されたモンスター退治、城下町の安全任務、ユーゼウス王国が誇る祭事、エルフ、ドワーフ、妖精やその他の種族への外交、様々な分野で活躍し更なる躍進。
「――以上の功績を称えガブリエラ・フェルグランド。貴殿をユーゼウス王国騎士団団長へと就任する」
「ッハ! ありがたき幸せ……」
晴れて我がユーゼウス王国のエリート部隊である騎士団の団長にまで成りあがった。
「っずびッ! ガブリエラがぁ、ガブリエラが団長にぃ!! っずびじゅるぶぼ!」
「ありがとう。お前が補佐してくれたからこそだ。あぁー……、ほら、ハンカチ……」
「ガブリエラぁぁあああ!! 団長おお!! 団長ぉおおおおずびじゅびぶーーーー!!」
(私のハンカチが鼻水まみれに……)
率いる部隊の全員が私の可愛い子。誰一人として欠けたくない。その思いに応えるように、部隊のみんなは日々精進し、他の部隊の追随を許さないほどに実力を培った。
そんなこんなあり、とある作戦後に友人のエルフにこう言われたりもした。
「ガブリエラ。あなたまた先走ったの? 作戦参謀が頭抱えてたわよ。あいつに作戦もクソもないってさ」
「そんなのは知らん。今回は正面から蹴散らすのが手っ取り早いと思い動いただけだ。現に作戦は成功したし被害も最小限にとどまった。言うことなしだろ?」
「実際そうだから参謀も悔しがってたわねぇ。……ねぇガブリエラ。今度三人でお茶でもどう? 私たち知らない仲でもないし!」
「今度な。私もそうだが参謀も立場があり団長としての仕事もある。今日はたまたま時間が出来たから顔を出せただけだ。分かってるだろ、エル」
「むぅー! 箱入り娘は暇なんですー!! 時間作ってよね!!」
「はいはい……」
そんな順風満帆な人生を謳歌していた矢先のことだった。
「尋常じゃない数のモンスター……。それが真っ直ぐここユーゼウス王国に向かっている……」
「して参謀。これをどう見る」
「我が王よ……。此度の事態は正にユーゼウス王国亡国の危機ッ」
「……文献にある"スタンピード"であるか」
「はい。間違いないかと……」
スタンピード発生。この事実と事態は瞬く間に広がり、王国と周辺国を一気に緊張感をもたらせた。
エルフやドワーフ、妖精族といった友好国に応援要請。それは波及し海向こうの中立国にまで話が流れ、一部部隊が派遣される。
中立国、敵対国を含めた視線。それはユーゼウス王国がスタンピードを乗り越えれるのか、そして乗り越え後のことを思惑し、動いているという話も出た。
そして迎える決戦の日。王国南の大平原地周辺がスタンピード撃滅作戦の決戦地。
地平線の彼方にまで埋め尽くされたモンスターの大軍。ここまで進軍する過程で潰してきたであろう街や村の人間を焼いたニオイが風に乗って鼻につく。
横を見れば共に戦う仲間の軍勢がズラリと並ぶ。多種多様な同盟軍である。
――ッギリ。
誰かの歯ぎしりが聞こえた。
「許せないだろう。あいつ等を……」
私は第三部隊に言った。
「当たり前に朝日を浴び、当たり前に朝食を取り、当たり前に暮らせる。ユーゼウス王国に住んでる限り、その民草の一人として生きている限り、安心だと。そう思っただろう……」
風が私の髪を靡かせる。
「しかしその安寧はことごとく潰された! 突かれ、斬り裂かれ、絞められ、終わらされたッ!!」
誰かの拳に力が入った。
「私は悔しい……。私は悔しいッ!!」
胸に手を置いた。
「そこに暮らしがあった! 想いがあった! 命があった!! それが踏みにじられたッ!! それを思うと頭がおかしくなる程に怒りが湧いてくるッ!!」
――ッジャキ!!
私はソードを生成し天に掲げた。
「これは同胞の弔い合戦であるッ!! 友の、仲間たちの無念を晴らすための戦であるッ!!」
――ッ応!!
「敵陣に斬り込むは我にあり!!
――ッ応!!!
「背中を預けるは
――ッ応!!!!
「我ら共に死地に征く!!」
――ッ応!!!!!!
「勝利の美酒を浴びようぞ!!」
――ッ応!!!!!!!!
地鳴りだと錯覚させる程の轟く声。それは私が率いる第三部隊だけの声ではなく、他の部隊の声も合わさった結果だった。
故に、故に。
――ッオオオオオオオオ!!
この場に居る全員が身震いし、声を上げた。
そんな時だった。
「おいアレ!!」
上空に無数の黒い影。それは雨の様に撃たれた弓矢に他ならなかった。
いくら強固な軍であっても防御しなければ一溜りも無い。
「――ッハ!!」
だからこそ私は跳躍し。
「ゼヤアアアアア!!」
――チュドワオ!!
巨大な斬撃を飛ばし、襲い来る弓矢の一切合切を蹴散らした。
誰もがその光景に驚く中、スタッと着地し、大きく息を吸った。
そして。
「行くぞおおおおおおおおおお!!!!」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
スタンピード撃滅作戦が始まった。