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秘策を打った姫君、二人きりになる

「ムリムリムリムリ、絶対ムリ!」


 全力で首を横に振るぶりぶり女。・・・・・・ちっ。使えないぶりぶりですわね。


「落ち着いて聞いてください。聖女・リリーよ。・・・・・・これは、あなたにしかできない役目なのです」


「そんなこと言ったってぇ……!」


 瞳を潤ませ、すがるような面持ちでこちらを見上げてくるぶりぶり女。


 ・・・・・・今度は泣き落としのつもりですか? 頭ぶりぶりが伝染るからやめてくださる? かぁ~っ、ぺっぺっ!


「わたくしたちの今の力では、かの追手・ハイデンリヒターを倒すことはできません。つまり・・・・・・このまま追いつかれてしまえば、それはすなわち、わたくしたちのの破滅を意味しますわ」


「でも・・・・・・だからってぇ・・・・・・! なんで後衛職のリリー1人で囮にならなきゃいけないの!? 他に適任がいるでしょ? 例えば、騎士のフィルくんとかさぁ!?」


 あらやだ、今の見ました奥様!? このぶりぶり、どさくさに紛れてフィリアさんを売ろうとしましたわよ。とんだ腹黒聖女ですわね。


 ・・・・・・でも、そうはさせませんことよ。


 そう。何を隠そうわたくしが考えついた完璧な作戦とは「ぶりぶり女を囮にして、その間に2人と1匹で逃げる」というものですわ。


「それは、あなたが聖女だからですわ。はなから勝てない戦いと分かって臨む以上、大事なのは攻撃能力よりも、となります」


「だったらなおさら、体力と防御力の高いフィルくんの方が……」


 まだ言いますか!? まったく虫唾が走りますわね。この妖怪腹黒ぶりぶり女め!


「確かにフィリアさんの方が体力・防御力共に上かもしれませんわね。ですが、フィリアさん単騎では回復手段がありません。それでは、ハイデンリヒター目線では少し硬いの相手でしかありませんわ。その点、聖女の魔法で防御力を上げたり、体力を回復したりすることのできる聖女のあなたであれば、ひたすら自身の防御を高めて回復を連打することでフィリアさんよりも場持ちが期待できるというわけです」


「うう……。そう言われると……確かに……?」


 ふん。ようやく折れましたわね、ぶりぶり女め。


「すまない、リリー……。必ずや姫様を王国へと連れ帰ってみせるから……どうか無事でいてくれ」


「ウホウホ」


 まあ! あなたのことを売ろうとしたぶりぶりの心配をするだなんて!さすがフィリアさんですわね。


 ・・・・・・でも、ぶりぶりは別に無事じゃなくていいですわ。むしろ死んでくれた方が好都合ですので、ハイド様、やっちゃってくださいまし。


 そんな話をしているうちに、ほぼゼロ距離にまで最接近し、地上へと降り立つハイド様。わたくしたちは手はずどおり、ぶりぶり女だけを残して駆け出します。


「やっぱり無理ぃ! 待って~!」


 この期に及んで怖じ気づき、作戦を無視してわたくしたちのことを追いかけようとするぶりぶり女。・・・・・・だが、そうはさせませんわ! わたくしはぶりぶり女にこっそり速度低下の魔法をかけ、 追いつけないようにしてやりましたわ。


「・・・・・・!」


 ぶりぶり女が何か恨み言を言っているような気がしますわね。・・・・・・最近耳が遠くてよく聞こえませんわ。


 背後では、ようやく観念したぶりぶり女とハイド様が交戦を始めました。


 作戦大成功ですわね。そう、わたくしがフィリアさんの腕の中でほくそ笑んでいると・・・・・・。


「……」


 フィリアさんが突然立ち止まってしまいました。・・・・・・どうしたのかしら?


「……ゴリロウ。姫様を頼む」


 すると突然、フィリアさんは抱えていたわたくしの身体をゴリロウさんへと預け、ぶりぶり女が戦っているところに向かって、来た道を駆け戻ってしまいました。


「ウホウホ」


「・・・・・・すまない、ゴリロウ。・・・・・・苦労をかける。だが・・・・・・リリーを一人で置いていくわけにはいかない・・・・・・!」


 ちょっと待ってくださいまし、フィリアさん。フィリアさんまで残ってしまったのでは、わたくしの立てた作戦の意味が……!


「ウホウホ」


「……お前なら大丈夫だ、ゴリロウ。……姫様を……頼んだぞ!」


 フィリアさんからわたくしのことを託され、決意を宿したような瞳で駆けだすゴリロウさん。風を切って駆けるゴリロウさんの腕の中から見えるフィリアさんたちの姿はどんどん小さくなっていき・・・・・・すぐに見えなくなってしまいました。


 え……? わたくし、このゴリラと二人きりになるんですの……?


 こんなはずじゃなかったですのにーーー!!!

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