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二人きりになった姫君とゴリラ、悠々旅をする

 ゴリロウさんとの二人旅は、意外なほどに快適なものでございました。


 始めこそ正直「こんなゴリラと二人きりなんて嫌ですわ。いつ殺してやろうかしら? でも、そうしたら下僕がいなくなってしまいますわね・・・・・・」とか思っていました。


 ですが、よくよく考えてみれば、別に顔面なんて意識する必要はないことに気がつきましたわ。


 ・・・・・・え? 「面食い拗らせた奴が今更どういう風の吹き回しだ?」ですって?


 だって、わたくしとゴリロウさんはそもそもが異種族なんですもの。恋愛対象にも婚姻対象にもならないのであれば、顔面偏差値もさして重要でもありませんわ。


 ・・・・・・え? 「ハイド様だって異種族だろ」って? ・・・・・・それはそれ、これはこれですわ。イケメンは種族の壁をも越えるので問題ありません。


 ・・・・・・話を戻しますわよ。そして、異種族同士なのは当然、ゴリロウさんからしても同じこと。


 彼はあくまでゴリラですので、わたくしに対する下心も何もなく、どこぞのエロブス勇者みたいに、二人きりになった瞬間接吻しようとしてくるなんてこともありませんでした。


 それでいて、移動時は抱えてくださったりなどレディ扱いは欠かしません。どういったご出自なのかは存じあげませんが、なかなかにお育ちの良いゴリラなのだとお見受けしますわね。


 そんな感じで、パーフェクトセバスチャンなジェントルゴリラを連れての旅路は、不自由がなくていいと思い始めてきた次第というわけですわ。


 ・・・・・・こうしてみると、ゴリロウさんは隠れ優良物件なのかもしれませんわね。あくまでもセバスチャン的な意味ではありますが。


 人間の心理とはかくも不思議なもので、どういう形であれ一度好意的に捉えると、その見え方も変わってくるものです。今となってはゴリロウさんの顔が、心なしかイケメンなように見えなくもありません。ゴリラにしては。・・・・・・まあゴリラ界の顔面偏差値事情はまったく存じあげませんが。


 今のところ、追手が迫っている気配もありません。フィリアさんが上手いことやってくれているのでしょうか?


 ・・・・・・なんか、もう一人くらい残していったような気がしなくもありませんけど、もう忘れてしまいましたわ。最近物忘れが激しくていけませんわね。


 何はともあれ、ゴリロウさんとの二人旅は、なかなか悠々としたものとなったのですわ。


「ウホウホ」


 ・・・・・・まあ相変わらず、何を言っているのかまったく分からないという難点はありますけれど。


 急に声を上げて立ち止まり、彼が指さした方向では、たくさんのバナナが木に成っていました。・・・・・・魔界にもバナナって生えているんですのね。


 風の魔法を唱え、器用にバナナを収穫するゴリロウさん。さっそく収穫したバナナを食べようとするゴリロウさんでしたが・・・・・・


「もうしばらく追熟させた方がおいしく食べられますわよ。しばらくポーチにしまっておいた方がいいですわ」


 そう。収穫したばかりのバナナはまだまだ固そうな緑色をしていました。


「ウホウホ」


 わたくしの勧めに素直に従い、バナナをポーチの中へとしまうゴリロウさん。


 ゴリロウさんの持っているこのポーチがなかなかの優れもので、彼の魔法のおかげなのか、見た目以上にたくさんの物を収納できるのですわ。荷物持ち適正も高いとはなかなかやりますわね。さすがは、わたくし自慢のゴリスチャン。


「ああ、ポーチを開けたついでに。例の魔導書、また読ませてくださる?」


「ウホウホ」


 その返事が何を言っているのかは分かりませんが、ゴリロウさんはポーチから一冊の魔導書を取り出し、わたくしへと手渡してくださいました。


 この魔導書にはなかなか面白い術の数々が記されていて、読んでいてなかなか飽きないのですよね。ゴリロウさんの魔導書とはいえ、中身はちゃんと人間の言葉で記されていて、わたくしにも問題なく読むことができますの。


 どれどれ……あ、これとか何かに使えるかもしれませんわね。「対象の支配権を奪う魔法」。


 ・・・・・・しっかし、いったい王国ってどのようなところなのでしょうか? この世界に来てからというもの、今いる魔界の景色しか見ていないので、皆目見当もつきませんわね。・・・・・・なんだかもう、空が禍々しい赤紫色をしていることに慣れつつありますもの。


 あとどれくらいでたどり着くのかも分かりませんし、そもそも今がどの辺りなのかも分かりません。


 ・・・・・・まあ、ゴリロウさんに抱えられながらの旅は気楽なものでございますし、気長に到着を待つとしましょうか。


 読んでいた魔導書を閉じて、少しひと眠りしようと目を閉じたところ・・・・・・


「ようやく見つけたぞ! この偽王女め!」


 のどかなひとときに水を差す不埒者の怒鳴り声が静寂を破りました。


 いったいなんですの? 正統なる王女であるこのわたくしを捕まえて「偽王女」とは無礼千万でございますわね!?


 ・・・・・・って、アレ? この声どこかで聞いたことがあるような・・・・・・ないような・・・・・・?

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