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闇を垣間見た姫君、バナナを投げる

「なぜだ、ゴリロウ!?」


「このクソ女め! ゴリっちに何をしたのさ!?」


 よもや断られることなんて露ほども考えていなかったのでしょう。アレクサンダーとぶりぶり女が信じられないといった顔でわたくしのことを糾弾していますわね。


 うーん。こればっかりは別に(珍しく)心当たりがないのですけれども・・・・・・。


「さあ? 強いていうなら人望の差ではありませんの? 王女に盾突く賊軍に与することなどできないと、ゴリロウさんは賢明なご判断をされただけに過ぎないとお見受けしますが?」


 まあとりあえず、人語を話せないゴリロウさんの代わりに、煽れるだけ煽っておきましょうか。


「ぐぬぬ・・・・・・言わせておけば、このクソ女め!」


「落ち着け、リリー。魔法使いのくせに低級魔法しか扱えないゴリラごとき、敵に回ったとて大した脅威ではない。あの偽王女共々、裏切り者として成敗してやろう」


「そうだね。やっちゃおう! アルくん!」


 かくして、ゴリロウさんとアレクサンダーたちが交戦を始めました。


「ゴリロウさんが低級魔法しか使えない」というのはアレクサンダーのハッタリではなかったらしく、総じて威力の低いゴリロウさんの魔法攻撃は、アレクサンダーの盾にいとも容易く弾かれてしまいます。


 しかし、かといってゴリロウさん側も負けてはおりません。アレクサンダーとぶりぶり女、二人分の攻撃をその圧倒的なフィジカルで受け止め、わたくしに攻撃が行かないよう奮闘してくださっていますわ。・・・・・・騎士とかの方が向いてるんじゃないかしら?


 つまるところ、戦況は互いの決め手に欠ける泥仕合といった様相ですわね。とはいえ、受け手に回されているゴリロウさんがどこまで持ちこたえられるかというところでしょうか・・・・・・?


 正直、わたくしとしましてはこの間にとんずら決めてしまってもいっこうに構わないのですが、ゴリスチャン抜きの一人旅になるのは少し困りものですわね……。そうなると、ゴリロウさんの援護をするのが得策なのでしょうが、はて、いったいどうしましょうか……?


 すると、そのときです。わたくしは何故だかなんとなく、ゴリロウさんから預かっていたポーチにしまったバナナの存在を思い出しました。


 ・・・・・・とりあえず、これでも与えてみましょうか。


 まずは、ポーチから緑のバナナを取り出し、時間加速の魔法をかけて完熟させます。


「ゴリロウさん!」


 そして、ゴリロウさんの名前を呼び、真っ黄色に完熟したバナナを投げつけました。


「何をする気だ!? ・・・・・・って、バナナ?」


 今の今まで静観を貫いていたわたくしが急に動いたことに一瞬身構えたアレクサンダーでしたが、それがただバナナを投げただけだと分かると、拍子抜けしたご様子です。


 空中で弧を描くバナナを器用にキャッチするゴリロウさん。わたくしの動きを警戒して、アレクサンダーが攻撃の手を止めているその隙に、バナナの皮を剥き始めました。


「なに? 呑気にバナナなんか食べちゃってさ! 喧嘩売ってんの!?」


 ぶりぶり女が杖から光の弾を放って阻止しようとしましたが、それよりも早くゴリロウさんはバナナへとかぶりつき・・・・・・。


 ボウン!


 ぶりぶり女の攻撃が着弾したのとどちらが先でしょうか? ゴリロウさんの身体から激しい白煙が噴出し、あっという間にその姿を包み隠してしまいました。

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