砂漠の一つの端には緑豊かな山脈があった。
その砂漠側は、斜面にへばりつくように一面が苔むした石造りの神殿となっている。
ピュトン神殿だ。
内部神託の間には床の中央に小さな穴が空き、煙を出している。この上に三脚のような台座が設置されていて、少女の巫女が座していた。
周りにも、同年代かより若い巫女が囲んで座っている。いずれも十五歳に満たない、露出の高い赤の衣を纏った半裸、月桂樹の冠を被るという出で立ちだった。
〝ピュトンの娘〟という巫女たちだ。
穴から立ち上るのは、太陽神アポロンに退治され地下に封印されているかつて一帯を支配していた大蛇ピュトンの吐息で、吸うものに予知能力を与えるとされている。
おおよそ、元世界で哲学者ソクラテスへ神託を与えたエピソードなどで知られるデルフォイ神殿のピュティアの予言と似たものだった。
「太陽が頂上に到りし時」
台座上の巫女が、月桂冠から葉を一枚ちぎって噛みながら話しだす。
「天の陸が足下に投じし日蝕を、囲う砂の海原のいずれかより、己が頭を胸に抱くもの現れん。蝕に住まう民を滅し、糧とせんがために」
同じ文言を山の麓の砂漠の果てでエリモスの隊長が口にして、後を続けていた。
「――それが、本日起きる事象としてこの街にもたらされた警告です。解読班によれば、おそらく周りのどこかから何者かが攻撃を仕掛けてくるとの解釈。予言ははずれたことがありません」
「なるほど」メティスは納得する。「それで城壁の上に兵と大砲を並べて周囲を警戒していたと。どおりで、下の街から人けが感じられないと思っておった」
彼女の指摘で、ブリコはよくやくそれに気付く。
確かに、オアシスを中心に添えるエリモスには人影が全く見えない。
「兵舎には戦力が待機しておりますがね」
と隊長だ。
「非戦闘員や市民はすでに、ピュトンの街へ避難させていますので。被害はエリモス街だけで住むと予測されていますが、ここは先祖伝来の重要な拠点。護るべく我ら一個師団が備えているのです」
そして、女神たちに訴える。
「この機会も何かの思し召しではないかと。可能であれば、女神様方の助力を願いたいのですが」
隊長だけでなく兵士たちも期待を込めた眼差しを神たちに向けてくる。
「どうする、ブリコよ」
「いや断れるわけないでしょこの空気」
メティスに問われて新人女神は応じる。
「でなくてもほっとけないわよ。今は、明らかに助けになれる力をあたしは持ってるみたいなんだから。上のバルニバビ島に住む許可だけもらって、さよならするような薄情な女じゃないもん」
「なれば、ギリシャ守護神族としてわたしもできうる限り付き合おうぞ」
先輩女神も了得するや、たちまち兵士たちは喝采にわいた。
「うざいネ!」
突如、それをつんざくような大声が投げ掛けられる。
城壁の外。ピュトン神殿のある方とは反対の砂漠、メティスの後ろからだ。
この騒ぎの中、異常によく通る声音の主をみな探し求めた。
着目された発声者は、チャチナドレスを着て頭をお団子にした小柄な十代前半ほどの東アジア系美少女。
いつの間にか、エリモスを見渡せるくらい離れた砂丘にポツンと一人で立っている。
『誰?』
思わず、エリモス側の全員が声を揃えた。
すると、相手はろくにない胸に手を当てて答える。
「
「……黄帝って、まさか
「そんなことも知らんで開拓に参加してるとは、話にらならないネ」
中国娘は鼻で笑う。次いで、口にした。
「五帝黄帝の名において命ずる、中国神話召喚。いでよ、首なし巨人