エリモスからだいぶ離れたクレーターで、四柱はどうにか立ち上がろうとする。
もはや、みなズタボロで満身創痍だった。
「……帰って、いいか」
いろんな不満があったはずの刑天が元気なく述べ、娘娘が力なく頷くや閃光に消える。
「よくやった、と誉めてやりたいところだが」アテネも脱力して、新人女神に申し出る。「いきなりこんな重労働をさせられるとはな。おれももう帰りたい、中国神の嫁ももはや戦えまい」
「ご、ごめんね。ありがと」
疲れきってブリコも許可し、同じくアテネも光に帰る。
「こ、今回は引き分けってことにしといたげるネ」
ぜぇぜぇと荒い息をしながら辛うじて立った娘娘は、自ら決めようとする。
「あ、いやあの」
「はい決まり、もう決まり!」
何と言ったらいいのか戸惑うブリコを遮り、無理やり決定。
「ご、五帝黄帝の名において命ずる。中国神話召喚。いでよ、
唱えるや、砂煙の跡だけを残しとてつもない速度で移動開始。エリモスがあるのとは反対側の砂漠の果てへと、一瞬で消えていった。
来るときもあれで来たからいつの間にかいたのかもしれない。縮地法は地面自体を縮め、瞬間移動を可能にするという仙術だ。
「そうか」新たなヒントも得た。「道具に付随しなくても、術自体も神話召喚できるんだ……」
一刻ののち。
「ええと、これでとりあえず全員治しましたね」
白衣を纏い蛇の絡み付く杖を持った懸命そうな青年が、エリモスの病院で言った。
ギリシャ神話召喚で呼び出された医術の神アスクレピオスである。死者さえ蘇生できるので、怪我はもちろん今回の騒動での死人さえ治療を終えたところだった。
列をなし、礼を述べて喜んで出ていく患者たる兵士たちを見送りながら、医者用の机で彼は付言する。
「ですがハイカブリコ殿、冥界神ハデスには貴方の責任としておきますよ。以前勝手に彼の支配下から死者を呼び戻したとして、ゼウスに雷落とされたんですからね。物理的に」
実際、彼は神話上それで死んでいる。
「え、ええ。機会があったら許可とっとくわ」
近くの空いた患者用ベッドに座って、ブリコは軽く応じた。
「力与えたのはゼウスなわけだし、それで可能なことはあいつの責任になるでしょ」
「そんなこと仰いますがね」
掛けていた眼鏡をくいと上げて、医者は注意を重ねる。
「さすがに雷霆で宇宙滅ぼしかけたのはやりすぎですよ。あのとき神界も大騒ぎでしたから、少しは反省してください」
「は、は~い。肝に銘じときます」
さすがにしゅんとする、新人女神であった。