「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
馬車を降りたマリーンお嬢様に深々と腰を折って最敬礼。
「うん、帰りはいつも通りの時間に迎えに来てね」
ひらひら手を振ってお嬢様が校内へと消えていく。ここから先は我々のような使用人が足を踏み入れる事ができない領域です。
しかし、この先はお嬢様に仇なす者達の巣窟。
下半身に節操のない女の敵レッド・ブラックシーを始め、
ですが、どんなに心配しても無力な私は無事を祈り見送る事しかできません。
「だがしか~し、この程度で諦めてはお嬢様の専属侍女など務まりません!」
私は侍女服に手をかけるとバサッと一気に剥ぎ取る。
「あんのぉ、ホントにそのお姿で学園に潜入されるんでやすかい?」
下から出てきた姿に御者が不安そうに眉を寄せてます。
昨日は無理な女生徒の変装で衆目を集めてしまいました。ですが、私はマリーンお嬢様の優秀な専属侍女。常に学習する女なのです。同じ
と言うわけで、今現在、私はお嬢様の通われている学園へと変装して潜入捜査中でございます。
ふふ、今度の変装は完璧ですよ。誰も私に不審を抱いておりません。昨日は不審な目を向けていた守衛も私とすれ違う時に何の反応も示しませんでした。これはいけます。
今回はホントのホントに違和感がないようですね。
これで影ながらお嬢様をお守りする事ができます。
「ねぇねぇ、いったいあのお方はどなたかしら?」
「さあ、お見かけした記憶はございませんが……」
むっ、何やら私を見て女生徒がざわつき始めておりますが、いったいどうしたと言うのでしょう?
まさか男子生徒に変装したのは却って目立ってしまっていいるのでしょうか?
やっぱり、二十過ぎの女が女子の制服に袖を通すのは痛いし恥ずかしいのです。そこで男装ならイケるんじゃね、と男子の制服を着てきたのですが。
むぅ、一部の隙も無い変装だと思いましたが……いえ、しかし、どうにも周囲の視線を集めているような気がします……主にご令嬢方の。
「あんな素敵な殿方なら忘れるはずはないのですけれど」
「そうですわよねぇ」
なんだかとっても熱い視線を感じます。どう見ても完璧な男子生徒じゃありませんか。いったい何がおかしいと言うのでしょう。
「あっ、こちらを見られましたわ」
「ああ、なんて麗しいお・か・た」
「いけません、私ドキドキしてきましたわ」
「あなたもですの?」
「私もきゅーって胸が痛みますわ」
「どうしましょう。息が苦しくなってまいりましたわ」
なんでしょうか?
みなさん急に胸を押さえてハァハァと。動悸息切れですか?
この学園には心臓を患っている女生徒が多いのでしょうか?
「ああ、そんなに見つめられたら私、私……」
「は、恥ずかしい!」
「顔が
「私も熱くなって……」
みなさんお顔が赤いですよ?
目もずいぶん潤んでいます。
どうやら、この学園のご令嬢は身体が弱い方が多いようです――私とても心配です。
医務室へお連れした方が良いでしょうか?
いえ、今は潜入捜査中です。生徒達との接触は極力避けるべきですね。あまり目立った行動は慎むべきでしょう。
具合の悪そうな可憐な乙女達を見捨てるのは胸が痛みましたが、これも全ては敬愛するマリーンお嬢様のため。ここは心を鬼にしなければ。
とまあ、ちょっと一部で目立ってしまったような気もしますが、まあ大丈夫でしょう。無事に学園へは潜入はできたのですから。
結果良ければ全て良しです。
さあ、陰ながらお嬢様を陰ながら見守りますよ!