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第8話 その潜入調査は誰のため?


 さて、今回は無事(?)学園に潜入できましたよ。


 なんだか麗しいご令嬢がたからとても熱い視線を受けているような気がしないでもありませんが……まあ、特に誰何すいかも受けませんし無問題でしょう。


「あゝ、胸が苦しいですわ」

「あなたもですの」


 それにしても、私とすれ違う度に女生徒が次々に胸を押さえてパタパタと倒れていくのはどうしたことでしょう。本当にこの学園は持病をお持ちのご婦人が多すぎはしませんか。私、とても心配です。


 それにしても、お嬢様には遠く及ばないものの、なかなか可愛い子が多いですね。げへへへ。


 うー、いけません。ヨダレが。今はお嬢様の方が最優先です。早く探さないと。待っていてくださいお嬢様。


 こうして私は学園内の探索に乗り出したのですが……そこで目撃したのは、目にあまるお嬢様への非道の数々――


『マリーン・アトランテ伯爵令嬢専属侍女シーナ・サウスは見た!〜貴族子女の集う学園に渦巻く嫉妬と欲望〜』


 この学園は広く、私は捜索は難航すると思っておりました。


「マリーン・アトランテ!」


 ですが、割とすぐお嬢様は見つかりました。


「キサマ、またピスカを虐めたそうだな!」


 ただ、予想を遥かに超える酷い状況でしたけれども。なんとお嬢様が数人の男子生徒に糾弾されているではないですか!?


「いったい何のお話ですか?」


 か弱き令嬢が男達に囲まれれば恐怖しかないでしょう。それなのに、お嬢様は毅然とした態度を崩しません。さすがお嬢様です。サスオジョサスオジョ。


「しらばっくれるな!」

「俺達はピスカから聞いて知っているんだ」

「彼女の教科書が破かれたり、水を浴びせられたり……」

「すべてキサマの仕業だろう!」

「可哀想にピスカが泣いていたぞ」


 そんなみみっちいことをお嬢様がするはずがないでしょうが!

 だいたい、あんな猛獣がそれくらいで泣くようなタマですか!


「それでしたら私ではないと何度も申し上げているはずですが?」


 ほらほらぁ、お嬢様は違うとおっしゃっておられるではないですか。


「ピスカが嘘をついていると言うのか!」


 てめぇ、お嬢様が嘘をついてるって言いやがるんか!


「心清らかな聖女であるピスカと心の醜い毒婦のキサマとどちらを信じるかなど明白」


 イカれた珍獣女とパーフェクトお嬢様のどっちを信じるかって?


 お嬢様でしょう!


「そうは申されても私には身に覚えがありませんので」

「まだシラをきるか」

「この卑怯者めっ!」


 女性一人を男達が囲んで罵声を浴びせる方が卑劣でしょうに!


「ですが、私が犯人だという証拠は何も無いはず」

「ピスカの証言で十分」

「そうだ証拠など不要」


 必要に決まっとろーが!


「まったく素直に自分の非を認められんとは、キサマには人の情と言うものがないのか」

「ピスカはあんなに清らかなのにお前ときたら」

「血の通わない冷徹女が!」

「やはり、貴様は殿下の婚約者に相応しくない!」


 とんでもない数々の暴言妄言をお嬢様に浴びせる男共ですね。いったいコイツらはどこのどなたヤロー様ですか?


「ヴァルト殿下から直接そのような事は言われておりませんが?」

「我ら殿下の側近が言っているんだ」

「お側に仕える俺達は殿下のお気持ちを一番理解している」


 コイツら殿下の側近なんですか!?


「殿下がお前に迷惑しているのは間違いない」

「キサマと婚約させられたヴェルト殿下がお可哀想だ」

「即刻婚約を破棄しろ!」


 おいおい、殿下の意思を確認せず、自分達の妄想で判断しているんですか。まったく、殿下はきちんと側近バカどもの手綱を握ってください!


「お前のような阿婆擦れに殿下の婚約者が務まるはずもない」

「キサマが婚約者の座にしがみつくなら我らにも考えがある」


 お嬢様を囲む殿下の側近達バカどもが殺気立つ。お嬢様に危害を加えるつもりですか。もう我慢できません!


「何をしている」

「ヴァルト殿下!?」


 お嬢様をお救いするため私は飛び出そうとしました。ですが、何処からともなくヴァルト殿下が登場。まさかタイミングを見計らっていたんじゃないでしょうね。


「スピカを虐めたアトランテ嬢を制裁していたところです」

「何?」


 側近の報告にヴァルト殿下が眉間に皺を寄せました。かなりご立腹のご様子です。


「マリーン、本当にピスカに無体を働いたのか?」

「いえ、そのような事実はございません」


 殿下の刺すような冷たい視線を受けてもお嬢様は毅然としていらっしゃいます。素晴らしい。ハラショー。マーヴェラス。トレビヤ〜ン。サスオジョサスオジョ。


 それに引き換え殿下の側近どもときたら。


「ウソをつくな」

「この奸婦め!」


 やっぱりここは私が出て(鉄拳で)止めるべきでしょうか。お嬢様のためなら、このシーナがヤツらの口を(物理的に)閉じさせてやりますよ。そうすればお嬢様に生意気な言動を(永久に)吐けなくなりますし。


 それで王家がお嬢様の敵になるなら、その時は王城へ乗り込み国王を(拳で)説得してやりますよ。


 あー腕が鳴ります。ポキポキ。


「あまり騒ぎを起こすな」


 ですが、る気マンマンで拳を鳴らしていたら殿下が側近達を制止されました。少しは心を入れ替えてくださったのでしょうか?


「本当にマリーンは何も知らないのだな?」

「誓って」


 しかし、殿下の目はとても冷えたままです。どうやらお嬢様をお疑いのご様子。殿下まで珍獣の方を信じるのですか!?


「まあ良いだろう。全ての真実はいずれ分かる」

「まったく殿下の仰る通りです」

「そうだ、キサマのウソなどすぐに露見するからな」


 再び側近どもが騒ぎ出しましたが、「今日はこれくらいでいいだろう」と言うと、殿下は側近達と去ってしまいました。


 それにしても学園におけるお嬢様の扱いは聞きしに勝る酷さですね。お嬢様は無事でしたが、ヴァルト殿下の冷たい目が気になりますし。


 これはお嬢様をお守りしながら調査を進めないといけませんね。


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