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責務を果たしただけですから

 「裁きの間」は、重たい雰囲気が立ち込めていた。死者の書を盗んだ重罪人を裁くために、ファラオがいるからだ。


「さあ、裁きの時間だ」


 ファラオの目には怒りの炎が燃えていて、それだけで賊は意識を失いかねない様子だ。


「あの、私どもは雇われただけでして……」


 あの時と同じセリフね。本当だとしても、死刑は免れないわ。


「貴様らの言うことが本当だということは裏が取れている。だが、我が一族を侮辱した罪は償ってもらう。この国で最も重い刑を与える。以上だ」


 あっけなく裁きは終わったわね。まあ、当たり前だけど。


 盗賊たちは、衛兵によって「裁きの間」の外に連行される。


「さて、もう一つの問題にとりかかろう。今回の事件、またもアイシャが活躍したと聞いた。礼を言おう」


「とんでもありません。当たり前のことをしただけです」


 そう、あくまでも神官としての使命を果たしたまで。


「ダリアの指導の賜物と言いたいが、そうはいかぬ」


 ダリアは、「えっ」と鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「な、なぜですか……?」


「それを聞くか。見当違いな捜索をしたと聞いているぞ、ダリア。もし、アイシャが賢明でなければ、賊を取り逃がすところだった」


「それは、そうかもしれませんが――」


「ダリア、今をもって神官トップの座を解任する。後任は、アイシャとする」


 ダリアは、口をパクパクさせている。


 喧嘩を売って負けた上に、地位はく奪なんていい気味だわ。


「それはなりませぬ! そのような小娘を――」


「それ以上、喋らぬ方が賢明だぞ」


 ファラオの声が「裁きの間」に重々しく響く。


 確かに私は小娘かもしれない。いいえ、神官にして悪役令嬢よ。でも、この国を、ファラオを思う気持ちで負ける気はないわ。


「さて、アイシャよ。我が父の大切な品を取り戻したこと、礼を言う。今回の功労者だ。いや、今では我にとって、それ以上の存在だな……」


 ファラオの顔は、威厳に満ちつつも温かみを感じさせるものだった。


 あんなに冷静な目をするのに、どうしてこっちをじっと見るのよ……ずるいじゃない。


 思わず顔が赤くなる。


「まだ問題は尽きない。今回の一件、一介の賊がなせるものではない。アイシャ、調査を引き続き頼むぞ」


 それだけ言うと、ファラオは「裁きの間」を後にした。


 黒幕を暴いて、この国に平和をもたらしてみせる。自分のためじゃなく、ファラオのために。

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