「そんなことが!」
庭での一件を告げると、レイラは卒倒しかけた。
「これで、ファラオを狙う一派がいることは明白になったわ。カーミルの親族の件、詳細を聞かせてちょうだい」
「もちろんです。カーミル様の父君――ムスタファ様は、現ファラオが統治することに反対していました」
「え、それってファラオへの反逆じゃない!」
レイラはうなずくと「あくまでも、当時ファラオが幼かったからです」と付け加える。
「つまり、誰かが代わりに政治を取り仕切る必要があったわけね。そして、その役をムスタファは狙っていた」
「ええ、その通りです」と、レイラ。
自室を歩きながら考えを巡らせる。
「動機は十分ね。あとは、ファラオ暗殺を阻止して捕まえるだけね」
もし、ムスタファが黒幕なら、すぐに次の一手を打つはず。
「レイラ、厨房に行くわよ。もうすぐ食事の時間だわ」
「つまり、毒を盛るかもしれないと?」
「ええ。今度こそ尻尾を捕まえるわよ」
自室を出ると、誰かが廊下の向こうからやって来た。なんだか、殺気のこもった眼差しを向けられてるんだけど。何かしたかしら。
レイラは「彼女はハーラといいます。アイシャ様が神官になった時に、任を解かれたのです」とささやいた。
神官の人数は十人。私が神官になったから、追い出されたのね。でも、それって逆恨みじゃないかしら。
すれ違いざまに肩をぶつけられる。何かの匂いがふわっと香る。
「ちょっと、危ないじゃない!」
「あら、ごめんなさい。今度から気をつけますわ」
この女、私に喧嘩を売るなんていい度胸してるじゃない。いつもなら喧嘩を買うけど、今はファラオを守るのが先決。
「次に会う時が楽しみだわ」
そう言ったけど、これって悪役のセリフじゃない! あ、私もともと悪役令嬢だった……。
「ええ、私もです。アイシャ」
ハーラの目は怪しく光っていた。
「さあ、レイラ。急ぐわよ!」
厨房に向けて駆け出す。間に合うことを祈って。