「ハーラ、お話がしたいのだけれど」
彼女は部屋から出てくると「この前、肩がぶつかった時のお詫びかしら?」と嘲笑う。
「ええ、そうね。あの時のことよ。でも、謝りに来たわけじゃない。単刀直入に言うわ。ファラオ暗殺未遂についてよ」
そう言った瞬間、ハーラの顔に動揺が浮かぶ。
「なんのことかしら? あの件、犯人は不明のはずよ」
あくまでも抵抗するつもりね。それなら、徹底的にぶちのめすのみ。
「あなたとぶつかった時、毒蛇特有の臭いがしたわ。あれは、あなたが毒蛇か毒を持っていた証拠よ。そして、あなたが厨房に出入りしたという証言がある」
あの時を再現するように、肩をぶつける。
「あら、言いがかりはやめてちょうだい」
「言いがかり? じゃあ、その鱗はどう説明するのかしら?」
「鱗?」
ハーラの服には蛇の鱗がついていた。
「え、昨日と服は違うはずなのに……」
「あら。その言い方、『昨日の服なら鱗がついていてもおかしくない』ってことかしら?」
「いえ、そういうわけじゃないわ!」
もう一押し必要ね。
「その鱗、毒蛇のものとは違うみたいだけれど」
「あなたに区別がつくのかしら?」
ハーラは鼻で笑う。
「区別できるわ。だって、その鱗は今さっき肩をぶつけた時に私が付けたのだから」
「まさか、そんな……」
彼女は膝から崩れ落ちる。
「神官舐めんなよ!」
あとは、黒幕とのつながりを証明すればいい。
「レイラ、家探しするわよ」
「はい、アイシャ様。ただ……」
「ただ?」
「動機が分かりません。ファラオを殺そうとした動機が」
レイラは首を傾ける。
「それは、おそらく私を神官に任命したことで、任を解かれたからよ」
レイラは「とんでもない逆恨みですね」とポツリと言う。
「そうね。でも、それを利用して焚き付けた人物がいるのは間違いないわ」
部屋を漁りながら、「この人とか」と付け足す。
「それは、ムスタファ様との密書! 『準備は整った。あとはお前に任せる』。ですが、それだけでは弱いのでは……?」
「ええ。でも、裁きの場にムスタファを引きずり出すには十分よ」
さあ、最後の仕上げといこうじゃないの!