考えない。 立ち止まって、考える余裕はなかった。
たかがしれてる。
女が一人、資格もないし、財産もない。
家もないから、アパートを借りて。
それまでは、考える必要がなかった事が、毎日、頭をよぎるようになって。
必死だった。
どうせ、どのように考えても、無理なんだと、頭の半分では分かっていたけど。
女一人の力なんて、たかがしれてる。
二十歳になって、十代ではなくなって。
いつも疲れを感じて、、二十代になったら、疲労感が出るのかなと。
歳をとったのだなと。
二十歳で、私は、すでに、おばさんなのかな。
母を、きちんと入院させなきゃ。
出来のいい弟は、なんとしても大学に行かせなきゃ。
利益など度外視で、地元の人の医療に生きた、父の願いでもあった、弟は医大に進ませなきゃ。
時々、大声で泣きたくなる。
田舎の診療所を売って、そのお金だって、いつまでもつか。
時間の問題だと、私は、よく、分かっている。
札幌に来て、二年。
母の病状は、一進一退。入院費もかかり。弟は、田舎では、優秀で真面目だったから、札幌のランクの高い高校にも、上位の成績で入学出来た。
弟は、働きづめの私に、申し訳ないと考えているのが、私は、よく分かる。
周囲の同年代の人を見るにつけ、たまには、わけの解らない怒りがおきてきたりして。情けなくなる。
オシャレなんて、まるで、縁がない。
なんでもいいから、安くて、丈夫なものを買って。
電気代とか、水道代とか、寒い時期は、暖房費とか、すごい、節約して。
弟と二人、お風呂とシャワーだけと、どちらが、経費節約になるのかなど、話し合ったり。
父が、突然亡くなり。
元気で、よく食べて、よく動いて、はっきりと自分の意見を言って、絶対に長いものに負けてしまう人じゃなかった。
私は、よく、お父さんて、熊みたい!とか言ってた。
あの頃は、平和で幸せだったのだと、今になって、思う。
優しくて、綺麗で、体の弱い母。
丈夫でタフな父。二人比べても、まさか、まさかに、父が亡くなるなど、想像出来るだろうか。
しかし、現実は、そんなものだろう。
ナオみたいな、純真で高明な人に出会うまで、私の目にも、心にも、希望も夢も無かった。ナオに出会って、私は変わった。
(つづく)