頑張ってね! くじけないでね!
もう、聞きあきている。
死んでお金をもらう、怪我したからお金をもらう、入院したからお金をもらう、父は保険を嫌った。
嫌っていて、生命保険も医療保険も、なーんにも入ってないから、父が亡くなっても、1円だって、保険金がおりるなんて事は無かったから。
阿寒湖温泉のホテルの部屋で、自分の事、つい、しゃべってしまった。
ナオに気を許して。
だって、一緒に、温泉に入って、裸の付き合いになったんだから。
ナオは、頑張っても、くじけないでも口にしなかった。
ただ、まっすぐに私を見て、黙って聞いていて、だんだん、ナオの黒目勝ちの大きな目に、湖のように、涙が滲んで。
ナオは、手の甲で、何度も、涙をぬぐっていた。ぼんやり、宙を見て。
「私、お祖母ちゃんに、少し、部屋代とか、払うかな、、、」
もっそりと、言った。
私は、ナオの言葉を信じて、マエハシカエデの事は、ぐっと堪えていて。
ナオの言った通りになって。
マエハシカエデは消えた。
私にも、平等に仕事がくるようになって。
ドールフェイスってのかな、ナオの顔は、ガキっぽい、温泉に入って、すっぴんになったら、もっと、ガキっぽい。
私は、自分よりナオは年下だと勝手に思っていた。
ナオは、自分を良く見せようとしない、素のまま、思ったまま。
本当は、頭がいいのに、自分では、利口だとは思っていないみたい。
全部、正直で、計算がなくて。
背中が綺麗だねって。
ナオじゃなかったら、単にお世辞だと考えて、嬉しくなかった。
ナオだから、本音と信じて、嬉しかった。
いつか、私だって、恋をしたい。
子供が大好きだから、自分の子供を沢山産みたい。
だから、保育士になりたかった。
でも、全部、無し、今は、全部、無し。
生きる為だけでも、先が見えなくて不安で。恋なんて、夢の夢。
でも、私は、女だから、いつかは、いつかは、自分の子供が欲しい。
その前に相手が。やっぱ、夢かな。