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第3話  ワタルとナオ No.9ー2

 頑張ってね! くじけないでね!

もう、聞きあきている。


死んでお金をもらう、怪我したからお金をもらう、入院したからお金をもらう、父は保険を嫌った。


 嫌っていて、生命保険も医療保険も、なーんにも入ってないから、父が亡くなっても、1円だって、保険金がおりるなんて事は無かったから。


阿寒湖温泉のホテルの部屋で、自分の事、つい、しゃべってしまった。


ナオに気を許して。


だって、一緒に、温泉に入って、裸の付き合いになったんだから。


 ナオは、頑張っても、くじけないでも口にしなかった。


ただ、まっすぐに私を見て、黙って聞いていて、だんだん、ナオの黒目勝ちの大きな目に、湖のように、涙が滲んで。


ナオは、手の甲で、何度も、涙をぬぐっていた。ぼんやり、宙を見て。


「私、お祖母ちゃんに、少し、部屋代とか、払うかな、、、」


もっそりと、言った。


私は、ナオの言葉を信じて、マエハシカエデの事は、ぐっと堪えていて。


ナオの言った通りになって。


マエハシカエデは消えた。


私にも、平等に仕事がくるようになって。


 ドールフェイスってのかな、ナオの顔は、ガキっぽい、温泉に入って、すっぴんになったら、もっと、ガキっぽい。


 私は、自分よりナオは年下だと勝手に思っていた。

ナオは、自分を良く見せようとしない、素のまま、思ったまま。


本当は、頭がいいのに、自分では、利口だとは思っていないみたい。


全部、正直で、計算がなくて。


 背中が綺麗だねって。


ナオじゃなかったら、単にお世辞だと考えて、嬉しくなかった。


ナオだから、本音と信じて、嬉しかった。


 いつか、私だって、恋をしたい。


子供が大好きだから、自分の子供を沢山産みたい。


だから、保育士になりたかった。


でも、全部、無し、今は、全部、無し。


生きる為だけでも、先が見えなくて不安で。恋なんて、夢の夢。


 でも、私は、女だから、いつかは、いつかは、自分の子供が欲しい。


その前に相手が。やっぱ、夢かな。

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