目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話  ワタルとナオ No.9ー3

 日帰りの仕事は、添乗員仲間内では人気がない。


出張手当も付かないし。

私達、派遣社員は、原則は時給だけになる。

宿泊になると、一流ホテルや旅館に泊まることもあって、食事も、自腹では食べられないような、豪華なお料理を食べられたりする。


 私は、そんなこと、どうでもいい、コンスタントに仕事があって、ある程度の決まった収入があればいい。


父に似てしまったのか、右と思うのに、左に進めとか言われても拒否するし、白を黒とは言えない。


 そんなんで、高校を卒業して、札幌に来てから、いくつもの店、会社を辞めた。

 夜のバイト、小さな店だけど、老夫婦が静かに、自分達が信じる食材を使って料理して、テーブルも6個しかない。

イッパイになっても、24席。


オーナーの老夫婦は、善意ある人で、そのレストランの仕事だけは、ずっと続いている。


 行けない日は、お昼までに連絡するとよい。 

 ウェートレス兼、洗い場。

グラスの磨きかたも覚えて。

古いタイプのレジの扱い方も覚えて。

お客様を大切にする姿勢も覚えて。


  夜、後片付けが終わって帰る時、余ったから、これ、お母さんに、、作ってみたから、味見して。

口の重いオーナーさんは、食材を分けてくれる。


 弟は、ここのビーフシチュー食べたら、他は食べられないなと言い。

母は、ブロッコリーって、こんな風に食べるのね、勉強になるわと。


 ブロッコリーをさっと湯にくぐらせて、氷水にとり、酢とお醤油とオリーブオイルのタレに浸ける、ただそれだけ。


 ブロッコリーが余ると、オーナーは作って冷蔵庫へ。

夕方、私には、賄い飯と称して、夕食が出る。

キッチンのすみの小さなテーブルで食べる。

その時に、良く小鉢に入れて出てくる。皮を剥いたプチトマトも同じようにして。


  そこのバイト代がなかったら、弟の高校までの定期代もきつかったかもしれない。


 母は、診療所を売ったお金がある内に、私に短大にでも行きなさい、短大でも保育士の資格は取れるのだからと何度も言ったけど、、そんなの無理だよ。


 お金なんて、減るだけだよ。

ちっとも贅沢なんてしてないし、私は、たかが、ワンコインのランチも行ったことない。


 暑くて、悪くなるかなと心配しながら、オニギリ持参で行く。

おやつが欲しくなったら、ポッキーかプリッツ。


 7月25日金曜日、私の前に、ある女性が。






       (つづく)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?