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第11話  相性 No.22-1

 何故かな、いつからだろう、自分の事なのに、分からない。

職場が先か、家庭が先だろうか。


何もかもが嫌になり。

空を見上げて、雲ひとつない青空だったら、以前は、何か心がウキウキしたものだったのに。


楽しいことなど、そうそう頻繁には無いものだと知り。

人の心は、変わるのが当たり前なのだと知り。


確実、絶対、必ず、そんな言葉を信じられなくなり。

今は、信じられないのではなく、信じていない。



白か黒かグレーか、身に付けるものは、モノトーンに決めていて。


ある日、いつだったか、夫が、


「色が無いんだね、全てが無彩色で、」


私は、夫が何を言いたいのか解らなかった。

色はある。白も黒もグレーも、れっきとした色であるはずで。

しかし、あの時、夫は、


「息がつまる、気持ちが休まらない。」


そんな風に言ったはずで。

静かに。いつもの夫らしい、表情で。



それは、私が大好きな夫の顔をしていた。

と、思う。

常に冷静で、端正な顔立ちには、崩れはなく。


私は、鈍感なのかも。

思い出そうとしても、夫に変化は無かったはずで。




私は、鈍かったのかも。

何も気付かないとは。



職場。精密機械の会社。小さな、1ミリとか、2ミリとか、小さな、小さな部品の一部を造る会社で。

一応は株式会社ではあるけれど、支店も出張所もなく。

社員は270人ほど。工場も営業部も総務部も企画部も、全てが7階建ての自社ビルに納まっている。

造るものが、ミリ単位の小さなもの故に、車を造るような大きな工場が必要なかったのだろうが。



私は、父が、この会社の社長と大学時代からの友人で、所謂、縁故で入社した。


本当は、証券会社に入りたかったが、2社受けて、2社ともダメで。

その時点で、父に丸投げした。バカバカしくなった。

何やら、どこを受けても採用されないような気がして。

自分の力が無いのではなく、採用される人は、予め暗に、決まっているように感じてしまって。


無駄な努力など、したくない。

そのように、感じてしまって。

父の力に委ねて、どうにでもなれと。

私の頑張らない性格丸出しで。






       (つづく)

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