夫は、否定することなどなく、あっさりと、浮気をしていると認めた。
「何の匂い?
香水の匂いがする。
まさか、あなた、毎週、土日は留守にして、浮気をしているんじゃないでしょうね。」
夫は、間髪入れずに、自分の頭に一瞬手をやり、少しだけ考えるフリをして、
「バレたか。いつかバレると思っていたよ。
浮気をして、だから、離婚したいと言っても、僕はしないよ。
いずみは最高の女、連れて歩いても恥ずかしくないし、なにせ、美人だろ、体も最高。
それに何より、いずみといたら、金に不自由しない。
僕は、生涯、いずみとは離れないよ。
毎夜、美しいスベスベの体を抱けて、高級マンションに住めて、高級車に乗れて、こんな生活は離したくない。
いずみの欠点は、色が無いことだけだよ。」
「また、色!?
その女の人には、色があるの? 」
いつも、いつも、鈍感で。
間が抜けている。
気持ちが折れるとは、こういうことなのかと、ふと思ったが。
意外だったのは、夫が浮気をしていると知っても、余り、腹が立たなかった。
腹が立つより、私は案外冷静であったと思う。
何やら、頭の良い夫。
悪びれもせずに、簡単に浮気を認めなから、離婚はしないと豪語している。
きっと、策があるのだろう。
私の事は、離したくないと言い、体も顔も外部への体裁の面でも。
また、金銭的な事も、はっきり言った。
そうだ、私は、その時に始めて気付いた。
夫の銀行から出ているはずの給与を見たことがない。
車も、彼の洋服も靴も、このマンションすら、そして、日々の生活費すら、全て、全て、私が出している。
なんたることか!!
祖父母や両親、兄夫婦に、友人の理恵に、相談する前に、自分は今、何をすべきかを、頭をフル回転して考えた。
何としても、離婚しなければ。
気味が悪い。
こういうタイプの人間は、何度も何度も、同じ悪さを繰り返すはず。
どんなに鈍感な私でも、それくらいは予測がつく。
投資に向けている、勘を総動員して、今、この、自分の難局を切り抜けねばならないと。
私にしては、珍しく、気持ちが高ぶっていた。
まずは、夫を調査しよう。大学時代くらいまでさかのぼり、身辺調査を依頼しようと思い至った。
(つづく)