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第19話  相性 No.22ー9


「おたすけばあ」は、理恵の地図が正確で、すぐ辿り着けた。

6時半の約束だったが、木製の分厚く重いドアを押したのは6時10分。

しかし、理恵は既に、カウンターに長い足を組み、座っていた。


 店内の全てが重厚で、張り合わせの板などではなく、天然木で、年月の積み重ねが艶になっていた。

10人ほど座ると、店は満員のようだが、よーく目を凝らすと、奥に部屋があるように見えた。



バーテンダーだろうか、私は、生まれて初めて、男性を見て、ときめいてしまった。

柔らかい髪が、少しウエーブがかかり、それは自然なウエーブで、襟足くらいまで、わざとらしくなく伸びて。

声は低音。眼は、あくまでも黒く切れ長で。

唇は薄いけれど、男らしさがあり。

素敵な人だなぁと。


奥の部屋にも、カウンターの奥にも、客はいるにも関わらず、理恵は、自分と同じ、ウィスキーを炭酸で割ったものを注文して、


「いずみ、別れなさい、あなた、、、


旦那は、ヒモよ、、全く、、


いずみは、ホント、変わってるから、

お嬢でもないのにさ、、


今どき、処女で結婚する人、いずみくらいだよ。


でさ、、旦那、、いずみみたいな綺麗な体を抱いといて、不感症はないわ、全く、許せない!」


 私は、他のお客さんに聞こえてしまう、声、小さくしてと言いたかったけれど、理恵は、一旦火が付くと、なかなか消せないことは、百も承知で。



理恵とは幼稚園から、大学まで、ずっと同じ、それも、幼稚園から高校までは、クラスも同じ。

互いに、よく知っている。

私は、理恵が初キスしたのも、バージンを棄てた日も、すっかり聞かされて知っている。

理恵は行動的で、積極的で、容姿は魅力的で。

今までに、何人もの人と激しい恋をしていて。


私は、いつも聞かされて。

でも、好きでたまらないとか、その人の事を考えると眠れないとか、理解出来なかった。

友達だから、大切な友達だから、聞いていただけで。




黒い蝶ネクタイをした素敵なバーテンダーさんは、指が細く長く、私は、何故かうっとりして、彼の指を見ていた。


もし、声が低音のまさしく男性の声でなかったら、女性と間違うほどに美しい人で。

眉でもいじっていそうで、何ひとつ、不自然な様子はなく、そのまま素なのだと分かる。









        (つづく)




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