目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第29話  相性 No.22ー19

 春の終わりに実家に来て。

夏が終わり、秋も過ぎ去り、私は25才になった。

実家から、毎日都内の職場に通い、数字を眺め。

資金運用課といっても、課には私一人で。

経理部の一角をパーテーションで仕切られ、机周りはモノトーンでまとめて。


 経理部の部長さんが使っている同じ両袖机にさらに、キャビネットをプラスして、パソコンの板を5枚並べ。

一人証券会社のようで。

数字、数字で、もしも、間違って、ポチンとしようものなら、何千万、いや、下手をすると何億もの損失が出る。


 私が入社するまでは、資金運用課などは存在しなかったらしい。

社長さんが私の父と大学が同じ友人で、私の投資の能力を評価してくれて、新たに作られた課で。


私は、1年目から、社長さんにすると、思ってもいなかった、または、期待もしていなかった、実績をあげて。

私のお給料は、上がった、上がったようだった。



一般的には、ひどいストレスになる仕事が、私にとっては、楽しくて、面白くてならず。


入社した時から、経理部長は私と目を合わせようとせず。

経理部の部屋の中に、パーテーションで囲った私の資金運用課があるゆえ、毎朝、経理部の室内に入らねばならず。


 「おはようございます」と私としては、渾身の力を振り絞って元気そうに挨拶するのですが、1度として、返事をしてくれたことはない。

無視されていて。それは、経理部全体だった。


 入社して半年、10月から辞令が出て、資金運用課の課長とするとなって、たった一人の課の課長になり。


一般女子社員の制服は、グリーンとブルーと白を混ぜたような爽やかなミニタイトのウェストがきゅっと絞られたテーラーカラーのスーツで、課長以上になると、同じデザインで色がグレーになる。

つまり、私は入社して半年で、そのグレーの制服を着る事になり。

一般の女子社員、特に、経理部の女子社員は、全く、私とは口をきかなかった。


私の性格は、それについて、是正しようとせずに、それならば、それでいいわと、一人でいることにして。

ランチも一人、飲み会もなく、部単位の社員旅行も夏の海水浴も、誘われる事もなかった。


それが、そのまま、当然のように続き。

私は、それについて、問題提起することも、誰かに愚痴ることもなかった。

しかし、理恵は知ってしまったようだった。





       (つづく)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?