何処へも行かず、時間だけは、刻々と過ぎて。
私は、たった一夜だったけれど、大介さんの想い出を大切に抱いて、おばあちゃんになるまで生きて行けそうだった。
職場でも一人。実家から通うようになり、結婚前と同じに、母は毎日、素晴らしい健康的なお弁当を作ってくれ。
玄米や五穀米、南瓜やナスの炒めもの、ひき肉ではなくて豆腐で作ったミニハンバーグ、人参のキンピラ、セロリの漬け物、などなど。
ベジタリアンではないけれど、余り運動はしない、体を動かす仕事でもなく、机に座りっぱなしの私の健康を考慮した上での、お弁当。
パーテーションで仕切られた、私一人だけの資金運用課で、時間になったら、一人で食べる。
リフレッシュルームに行くと、レンジもあり、自動販売機も何台もあって、味噌汁やスープや、コーヒーや麦茶も手に入ったけれど。
母は、保温保冷の水筒に、夏は麦茶、秋になってからは、コーヒーを入れて、持たせてくれて。
私は、美味しく頂いていた。
独身時代は、当たり前のように感じていたはずで、しかし、離婚して実家に戻ってからは、感謝していた。
社会に1度も出たことのない母。
短大を出て、近所に住んでいて、幼い頃から知っていた父と、ぱっと結婚したらしい。
6才上の父と。
何が良かったのかと聞くと、母はいつも決まって、
「いつかは結婚するでしょう、子供も産まなきゃ。お父さんは、まあ、頭も良い方で、大学もまあまあのとこで、末っ子だから、、つまりね、私は、親のそばにいた方が楽だと思ったの。」
祖父母は同居している。
母の両親になる。父の両親はすでに他界している。
母は、のんきそうに見えるけれど、案外、先々を考えていたのだろうか。
だから、私にも、見合い結婚を薦めたのかも。
それが失敗して、母も祖母も責任を感じているのか、以前より、私にひどく気を使っているように感じていた。
「誰か、好きな人が出来ると、一番いいのよね、
いずみには、そんな人いないのよね。
会社に行くだけ。会うのは理恵さんだけ。
可哀相な子、、」
母と祖母と義姉が話しているのを聞き、私は、つつっと広いリビングに入ると、
「私、好きな人いる、
あのね、好きな人だったら、いるの、
画家さんなの、、
大好きなの!!
理恵の従兄弟なの!!
心配しないで、私、可哀相じゃないから!!」
(つづく)