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第30話  相性 No.22ー20

 何処へも行かず、時間だけは、刻々と過ぎて。


 私は、たった一夜だったけれど、大介さんの想い出を大切に抱いて、おばあちゃんになるまで生きて行けそうだった。


職場でも一人。実家から通うようになり、結婚前と同じに、母は毎日、素晴らしい健康的なお弁当を作ってくれ。

玄米や五穀米、南瓜やナスの炒めもの、ひき肉ではなくて豆腐で作ったミニハンバーグ、人参のキンピラ、セロリの漬け物、などなど。

ベジタリアンではないけれど、余り運動はしない、体を動かす仕事でもなく、机に座りっぱなしの私の健康を考慮した上での、お弁当。

パーテーションで仕切られた、私一人だけの資金運用課で、時間になったら、一人で食べる。

リフレッシュルームに行くと、レンジもあり、自動販売機も何台もあって、味噌汁やスープや、コーヒーや麦茶も手に入ったけれど。

母は、保温保冷の水筒に、夏は麦茶、秋になってからは、コーヒーを入れて、持たせてくれて。


私は、美味しく頂いていた。

独身時代は、当たり前のように感じていたはずで、しかし、離婚して実家に戻ってからは、感謝していた。

社会に1度も出たことのない母。

短大を出て、近所に住んでいて、幼い頃から知っていた父と、ぱっと結婚したらしい。

6才上の父と。

何が良かったのかと聞くと、母はいつも決まって、

「いつかは結婚するでしょう、子供も産まなきゃ。お父さんは、まあ、頭も良い方で、大学もまあまあのとこで、末っ子だから、、つまりね、私は、親のそばにいた方が楽だと思ったの。」


祖父母は同居している。

母の両親になる。父の両親はすでに他界している。


母は、のんきそうに見えるけれど、案外、先々を考えていたのだろうか。

だから、私にも、見合い結婚を薦めたのかも。


それが失敗して、母も祖母も責任を感じているのか、以前より、私にひどく気を使っているように感じていた。


「誰か、好きな人が出来ると、一番いいのよね、

いずみには、そんな人いないのよね。

会社に行くだけ。会うのは理恵さんだけ。

可哀相な子、、」

母と祖母と義姉が話しているのを聞き、私は、つつっと広いリビングに入ると、


「私、好きな人いる、

あのね、好きな人だったら、いるの、

画家さんなの、、

大好きなの!!

理恵の従兄弟なの!!

心配しないで、私、可哀相じゃないから!!」




       (つづく)






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