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第11話 リーザ、仕切り直す。

行政部に戻って、エドワード様に言われたように堂々と振る舞った。

明らかに周りが私を見る目が、新しい同僚から上司を見る目に変わった。


「そういえば先皇陛下はどちらにおられるのですか?」

私はふと疑問に思ったことを近くのモブの行政官に尋ねた。


まだ12歳の子に皇位を譲ったのだ。

いくらアラン皇帝陛下が立派な方でもサポートするはずだ。


「先皇陛下は皇位を譲られた後、旅に出られました。どこにいるかは私も存じあげません」

モブの言葉に驚いてしまった。

なんて、無責任な親なのだろうか。


「皇后陛下はどちらにおられるのでしょうか?」

私はアラン皇帝陛下の母親の行方も気になった。


「皇后陛下はカルマン公爵家が粛清され領地に引っ込まれた際に、一緒に領地に行かれました」

モブの言葉に納得した。

確かに皇宮に留まれないわけではないけど、いずらいだろう。

だったら、どうせ広い領地とお屋敷を持っているだろうからそこでゆっくりした方が楽しそうだ。


「皇后陛下がいたら、私は今回の採用試験に落ちてますよ。皇后陛下は自分の目に映るものは美しいもので揃えたいという方で、彼女の意向が反映され要職は美形揃いでしたから」


モブが言った言葉に、私は今こそレオの奥義を使おうと思った。

モブの欲しい言葉を与え、慕われよう作戦だ。

レオはいつだって、そうやって周りの気分を良くさせて人望を得ていた。


「人間中身ですよ」

私は会心の一撃を喰らわしたつもりだったが、モブの顔は曇っていた。

もしかして、外見を褒めて欲しかったのだろうか、どこにでも居そうな顔のどこを褒めれば良いのだろう。


「毛流れが抜群ですね」

私が言うと、モブは白けた顔をむけて言ってきた。

「無理にフォローしなくて結構です。」


先に、モブの外見を無理やりにでも褒めていたら好感度を上げれたのだろうか。

レオはいつも相手の欲しい言葉を与えるような会話術でどんどん人気者になった。


ただでさえ、天才で彼と仲良くなりたい人は多いのに気さくな声掛けができるのだ。

あれは、計算ではなく彼が本当に思っている言葉なのだろうか。

どことなく計算して発している気がしてしまうのだが、この計算を完璧にするには天才レオ並の頭が必要とのことが分かった。


それにしても両親ともろくでもない感じだ。

アラン皇帝陛下は本当に私の癒しを必要としているかもしれない。


「ちなみに、アーデン侯爵ってどんな方ですか?」

どうしたら、エレナ・アーデンのような人間が育ってしまうのか知りたかった。

彼女は美人だが、性格は軽くホラーだ。


「王子様のように美しい方で、帝国全体のことを常に考える素晴らしい方です。今回、要職を希望されなかったのは派閥のバランスを考えてのことだと思います」


モブがルックスに触れたのは、彼が結構外見にコンプレックスがあるからかもしれない。

つくづく、無理にでも彼の外見を褒めておけばよかった。

よく見てみれば、歯並びが抜群ではないか。


エスパルと帝国の貴族は仕組みが違った。

エスパルでは神の血を持つ王族に仕えるのが貴族であり、貴族間に特に派閥はなかった。


帝国の貴族には皇帝派と貴族派が存在するらしい。

皇帝大好きの皇帝派と自分たち大好きの貴族派だ。


エスパルが暴走してしまったのは、派閥がなかったからだと思った。

とにかく、神の血を持つ王族の言うことが絶対で、全貴族はそれを支持しなければならなかった。

実は裏でヴィラン公爵に実権を乗っ取られていたのだが、国の方向性は全て王から発せられていたため従うしか国民に選択肢はなかった。


今思えば、エスパルは国という形をした危険な宗教団体だ。

エスパルのような生活はもうしたくないので、帝国の派閥バランスは宰相としても意識しておくべきだ。


私はこの派閥については覚えることにしていたのだ。

確か、アーデン侯爵家は皇帝派の首長だ。

今回貴族派の首長であったカルマン公爵家をはじめ多くの貴族派が要職をとかれている。


自分の娘まで皇后として送り出すのだから、派閥のバランスを考えると自分は一歩引いたところにいようという判断なのだろう。

父親が素晴らしいなら、母親はどうなのだろうか。


「アーデン侯爵夫人はどんな方なのですか?」

私はまたモブに聞いた。

彼と会話のやり取りを繰り返すことで、さっきの失敗を挽回し慕われようと思ったのだ。


「女性でありながらアカデミーを卒業している優秀な方ですよ、貴族の夫人たちからも慕われていて、本当に面倒見が良いと評判の方です」


彼の言葉に驚いてしまった。

そんな素晴らしい人格者の両親が育てても、あんな人を小馬鹿にしたような娘になってしまうということか。

子育ての難しさを痛感してしまった。


私がアーデン侯爵家について知りたかったのは、もしかしたらレオを養子にしようと企んでいるのではないかと思ったからでもある。


面接の時に私が失態したら、彼女は子供達はアーデン侯爵家の養子にすると言っていた。

もしかしたら、天才レオを侯爵家の後継者にと考えているのではないかと思ったのだ。


一人っ子の彼女が出てしまうとアーデン侯爵家は跡取りがいなくなる。

驚くことにアーデン侯爵はたった1人の妻しかいないらしい。

20年近く1人の妻で満足できた男が、また妻を迎え入れるとは思えない。


それに、先ほど聞いた話によると妻は女でありながらアカデミーを卒業する才媛。

おそらく、他に妻を迎えようものならさっさと家を去ってしまいそうだ。

男に頼らずとも、アラン皇帝陛下の作ろうとしている帝国なら能力さえあれば生活できてしまう。


だから、跡取りを調達する必要が発生する。

アーデン侯爵令嬢は明らかに血筋より能力を重んじていた。


彼女の家での発言力が強ければ強いほど、レオを跡取りにと考える可能性が高い。

レオはエスパルでもヴィラン公爵以来の天才だと言われていた。


エスパルが決定的におかしくなったのはヴィラン公爵が側近になった50年前からだ。

何もかもがコントロールされているような感じになっていった。

人々は、政府に反感を持つだけでも抹殺されるような恐怖に怯え出した。


彼は天才だと言われていた。

エスパルの貴族の学校は優秀な人材を育てる目的だと言っていたが、実際はレオのような天才を見つけ出し幹部にする目的があるように思えた。


実際、レオは入学してすぐ目をつけられてしまい。

早期卒業をさせて、幹部にするとの話がきた。

レオは12歳になったらヴィラン公爵家の養子になり幹部として中央で働くことになっていた。

それは洗脳教育をするために派遣された家庭教師がレオに話しているのをたまたま聞いて知ったことだった。


そんな、天才レオを彼女が欲しがらないわけがないと思うのだ。

私はレオを手放したくないし、彼のために手放すとしたら、アーデン侯爵家をこちらも査定させてもらおうと思ったのだ。


「失礼致します。スモア伯爵にアカデミーから呼び出しがありまして、至急ご足労頂きたいですとのことでした。」

夕方に差し掛かった頃、突然言われた言葉に不安になった。

もう、アカデミーの終了しているはずだけれどダンテに何かあったのかもしれない。


「私、今日はアカデミーに寄って、そのまま帰宅するのであとはお願いします。」

私は、そういうと足早に行政部を出ようとした。


「失礼致します。アーデン侯爵令嬢より、至急来るようにとの呼び出しです」

突然、行政部の入り口に彼女の使いの者が現れた。


「今日は無理です。何か要件があるならば、紙に書いて机の上にでも置いておいてください」

私はそう言い捨てると、アカデミーへと足早に急いだ。


なんで、一介の貴族令嬢が宰相を呼び出すのか。

普通、あちらから私の方に来るのが筋というものだ。


アカデミーに付くと、教室に案内された。

もう、生徒たちは帰宅していた。

私はこの後、何が起こるか知っている。

保護者たちから、ダンテのことで総攻撃を受けるのだ。


エスパルで何度も経験したことだ。

1日目でもうこのイベントがあるとは思わなかった。

時間を持て余した過保護な貴族夫人が多そうだ。

少しは子離れして、子供同士で解決させれば良いのに。


教室に入ると、貴族夫人たちが一斉に敵視した視線を浴びせてきた。

「どうぞ、お座りください。スモア伯爵」

アカデミーの教師が、困ったように椅子を引いている。

おそらく我が家に文句を言いたい夫人たちを収集したかったろうに、上手くいかず仕方なしに私に連絡してきたのだ。


「いいえ、結構です。忙しいので長居する気はございません。手短に言いたいことをおっしゃってください」

私が何かご迷惑かけましたかと弱気に話を聞くのを期待したのだろうが、私は敵意には敵意で応戦する人間だ。

私の言葉に保護者たちがどよめいた。


「帝国貴族の風紀を乱していることについて謝罪はないのですか?」

急に怒りに打ち震えているようにヒステリックな声を出している貴族夫人A。


「上のお子さん、制服も着ないで登校したそうじゃないですか。校則ってわかってます?」

自分は賢いと勘違いしてそうに、メガネに手をかけながら言う貴族夫人B。


「お弁当って初めて見ました。お母様はエスパルの辺鄙な村のご出身だそうで、私たちとはお育ちが釣り合わないのかもしれませんね」

上品そうに、扇子で顔を隠しながら語る貴族夫人C。


弁当は帝国貴族の人間は食べないとは初耳だった。

だから、エドワード様は馬車の中で試作のサンドイッチを入れた弁当かごを出したのだ。


周囲に見られて、家紋の名に傷つかないようにしたのかもしれない。

本当に聡明な方だ、その上私には自然体のその姿を私には見せてくれたことが堪らなく嬉しい。









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