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第12話 リーザ、総攻撃にあう。

私は全員の不満が出てから一気に潰すつもりだったが、3人で終わってしまった。

どうやら、ここにいる貴族夫人は人任せで同調圧力が強いだけの人間が多そうだ。


「貴重なご意見ありがとうございます。どうやら、ここに揃っている家紋の方は現政権にご不満の方が多いようですね。皇帝陛下にお伝えしておかねばなりません」


私の言葉に一瞬にして、貴族夫人たちの顔色が変わった。


「皇帝陛下は出身国も、出身身分も等しく帝国民として扱い爵位を授け要職へと取り立てました。当然ご存知かと思いますが私も伯爵位を授かり、帝国の宰相として勤務しております」


私が発する言葉に動揺が見えて、夫人たちは自分たちの顔を扇子で隠しはじめた。

滑稽すぎて、もっと追い詰めてやりたくなるけれど早く帰宅して子供たちのケアをしたい。

お弁当や制服の件で嫌な思いをしているはずだ。


「お弁当にして正解でした。弟のレオはエスパルの星と言われるほどの天才です。アーデン侯爵令嬢以来の飛び入学が認められたので当然ご存知かと思いますが」

私の言葉に思わず、どよめきが起こる。


アーデン侯爵令嬢はどれだけレジェンドなのだ。

ちなみに、レオが飛び抜けた天才であるのは事実だ。


生後5ヶ月で危険な目に遭った彼をみて、すぐにお喋りして欲しいと願った。

お話ししてくれれば、誰にどんな目に合わせられたか証明できるからだ。


程なくして、彼は発語しだし、舌ったらずながらも大人のような会話ができるようになった。


「レオは俺に似てる、レオがマラス家の跡取りだ」

そんな、天才児を見てマラス元子爵はレオを跡取りとして可愛がった。


優秀なら自分の子で、ダンテのように問題がありそうなら自分の子ではないという彼をますます憎むようになった。


エスパルでの学校に入学するなり、レオは将来の幹部候補だと言われていた。

貴族の仕組みが帝国とは違うので、自分たちのことにしか興味がなさそうな夫人たちにはエスパルの星とわかりやすく説明した。


エスパルの学校にレオが入学するまでは、度々ダンテが風紀を乱し、授業妨害をすると保護者から総攻撃を受けていた。

しかし、レオの優秀さが伝わり、将来の幹部候補と言われるようになると周りの態度がガラッと変わった。

攻撃してきた保護者たちは、まるで記憶喪失にでもなったかのように私に媚へつらってきたのだ。

私は人がどれだけ簡単に手のひら返しをするかを知っている。


「このような反乱因子の中に、新しい帝国の財産になるだろう息子を放り込むのです。毒でも盛られた食事を出されたらたまりませんから」

私の言葉に夫人たちが慌て出した。


私はわざと攻撃的な言葉を使って、2度と彼女たちに楯突くなと警告しているのだ。


今回、帝国で行われた試験は現職の人間も同等の試験が課せられていて、経験ではなく能力のみを見られていた。

とんでもない倍率の中で行政の最高職を得た私の言葉はさぞや怖いだろう。


私はここにいる夫人が誰が誰だかわからないが、彼らは特別優秀だろう私はきっと自分たちのことも把握していると誤解してくれる。


「では、忙しいので失礼します」

私が、教室を去りアカデミーを出ようとした。


「お待ちください。カシア・ケークと申します。私は、皆様を止めようとしたんです、伯爵様に不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」

胸に手を当てながら、いかにも悲痛といった顔を作って私に言ってくる。


「私は、伯爵です。夫人は身分の低い者から高い者に話しかけるのは失礼に当たるという最低限のマナーさえ守れないとは、品性を疑いますわ」

私は冷たく言い放つとその場を去った。


時間があれば、彼女と関わったかもしれないが今は子供たちが心配なので早く帰りたい。

彼女は責められた私に後から寄り添うという技で私の心を掴もうとしたのだろう。


彼女は先ほどの教室で一言も発さなかった人間だ。

それなのに1人教室を出て私を追いかけてきた。


抜け駆けとも言えるその行動を可能としたのは、彼女があの中で夫人たちの行動を操っているからだ。


「私がうまく言っておきます」などと適当なことをいって教室を出てきたのだ。

自分が上手くやっているのだと、勘違いしているだろうが彼女の瞳はレオを殺そうとしていたマラス元子爵邸の夫人たちとそっくりだ。


親しみやすい微笑みを讃えながら、本当は相手がいつ転落するかを狙っている。


時間があれば、彼女と仲良くするフリをして話を聞き出そうと思った。

ケークという名前はアーデン侯爵令嬢が私に覚えるように言った書類にあったのだ。


ケーク伯爵は貴族派の貴族で、今回要職を解かれている。

だから、皇帝陛下に不満を持っている可能性がある。

夫人と仲良くして、反逆の企みがないかチェックするべきかもしれない。


「母上、お弁当とてもおいしかったです。お忙しいのにありがとうございます。」

レオが2人分の弁当箱を洗いながら言ってくる。

本当はその弁当が原因で嫌な思いをしたはずなのに、彼は絶対に人を傷つけることを言わない。


人が欲しい言葉をいつも探して話かけているように見える。

ずっと彼を見ている私は彼の本音がそこにはないのではないかと思いつつも、彼に甘えてしまっている。


エスパルにいた時もレオの存在で、私もダンテも子爵邸にも学校にもいやすくなった。

「母上、今日の夕食は僕が作ってみても良いですか?美味しいお弁当を作ってくれたお礼をしたいのです。」

彼が笑顔で私に話しかけてくる。


これは普通の10歳の男の子が言う言葉なのだろうか。

ダンテという変わった子の親の経験しかないから分からない。

絶対に学校で嫌な思いをした弁当の感謝を述べて、兄と自分のお弁当箱を洗っている。


「ありがとう、忙しいから、助かるよ。ところでダンテは?」

私は今姿が見えないダンテのことが気になった。


「今日は初日だったので、疲れてもうお休みになるといっていました。もし、夕食が美味しかったら明日から僕がお弁当を作っても良いですか?僕も母上のような美味しいお弁当が作れるようになりたいんです」

レオが楽しそうに言ってくる、優しくて自慢の息子だ。

だけれど、本当に彼は無理をしていないだろうか。


「あの、これアカデミーの卒業生からもらったノートや試験の過去問なんだけど役に立つかしら」

私はレオにエドワード様から頂いたものを渡した。


「親切な卒業生の方ですね。アカデミーの勉強は大変そうなので助かります」

レオが笑顔で受け取りながら言う。

この言葉が彼の本心なわけがない。


2歳でエスパルの学校に入学したら、初日から大騒ぎになる程の天才児。

入学してから1週間後には将来の幹部候補として国から特別家庭教師が派遣された。

帝国のアカデミーの勉強がどれだけ難しくても大変なわけがない。


エドワード様に私がダンテを優先していることを指摘されてから気になって仕方がない。

彼に指摘されて、私は初めてレオをダンテより優先したことが一度もないことに気がついた。

それどころか私はレオの出来の良さに何を話して良いのか分からなくて距離を置いてしまっているところさえある。


エスパルでレオが体調が悪くて家で寝込んでいた時があった。

レオが学校に入って1年くらいが経った頃だ。

レオ3歳、ダンテ5歳の時だった。


そんな時、学校から呼び出しがあったのだ。

ダンテが1年に1回の検診にきていた医者を怒らせてしまったらしい。


私は身動きが取れないくらいぐったりしたレオを子爵邸に置いていくのに不安もあった。

ちょうど子爵邸の主治医がやってきて彼を診ていてくれるという言葉に甘えようと思った。


幼児がみんなかかるような一時的な発熱だし重大な病気ではない。

レオが側にいて欲しいと珍しくわがままを言ったので聞いてあげたかった。

でも、久しぶりの呼出にダンテのことが心配だったのですぐに戻ると断り学校へ向かった。


「全員検診に問題がなかったとおっしゃいましたが、その決定は最初から決まっていたものですか?だとしたら、あなたは何もしていません。検診費はとるべきではないのではないですか?」


到着した途端、いつものようにダンテが質問攻撃をしていて頭を抱えてしまった。


女医さんだったようで珍しいと思った。

きっと、男の何倍も努力したのだろう。


それにしても美人な女医さんだ。

ダンテは美しい年上の女を困らせるのが好きみたいだ。


そんな努力家でもダンテの攻撃には耐えられないのだろうか。


学校の人間はダンテのこんな言動には慣れっこだろうに。

4歳でやっと発語したダンテだったが、言葉を発し出すなり止まらなくなった。

4歳まではまるで世界に疑問が多すぎて、様子見してたとでも言いたいみたいお喋りだった。


話さない時は心配したが、話すと大変さも感じた。

それでも、私はダンテが話すのが嬉しくて聞けるだけ聞いてしまう癖がついていた。


「検診に問題があったのに見過ごしていた場合、賠償を請求したいので身分証を掲示してください」

ダンテの言動に周りが困り果てているのがわかる。

ダンテがたかだか学校の軽い形だけの検診でまた問題行動をしてしまっている。










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