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第13話 リーザ、ついに皇帝と遭遇。

「そもそも、私はあなたの医師としての資質を疑っています。昨日、19時35分、学校の裏で男性と歩いていた時は指輪を外していたのに、検診時はなぜ指輪をしていたのですか?」


ダンテの言葉に私は思わず女医の指を見たら、確かに結婚指輪をしている。


「本来なら生徒の体に触れる検診時に指輪を外すべきです。手袋もせず、指輪をした手で触れるなんて、指輪の側面に菌がついていたらどうするのですか?手洗いで側面の菌まで落とせる証拠を提出してください」

私はいつものようにダンテの会話が終わるのを待った。

彼の会話を止めたところで、今度はなぜ会話を止めたのかという話になる。


それは学校の先生も分かっているのだろう、いつも悩まされる質問攻撃の矛先が他人に向いていることを楽しんでそうにも見える。


だったら、私を呼び出す必要なんてなかった気もするがダンテのお喋りを聞くのは幸せだ。

彼が生まれた時の感動から4年待ってやっと聴けた彼のお喋りだ。

レオが学校に入学してしばらくするとダンテが会話し始めた。


言葉を発する前の方がトラブルも少なかったのではないかというくらい弁がたった。

どんなにトラブルがあっても、レオが入学してから呼び出されたことはなかった。


レオというエスパルの幹部候補がいることで、先生方も保護者も私に最大限の気を遣うようになっていたからだ。


ダンテは美人教師の授業しか受けなかったが、その教師の時は彼女がノイローゼになるくらい質問攻めにしていたらしい。

今日の女医さんも美人だから、ダンテは構いたいのだろう。

男の医師なら検診など受けず、学校を脱出しているはずだ。


「あなたと昨夜いた男性を知っています。彼と指輪の装着の有無の関係性を説明してください」

ダンテが言った言葉に、女医が身分証を叩きつけてでてってしまった。

思わず身分証の原本を叩きつけてしまうくらい言われたくなかったことがあったのだろうか。


「この度の検診は国からの強制でしたが、現政権において国から補助が出ているとは思えません。毎月の校納金から検診費が支出されているという解釈でよろしいでしょうか?」


ダンテの質問の矛先が学校の先生に変わった。

先生方は固まって、私に助けを求めるような視線を向けてくる。


「12ヶ月均等な支払額ということは、検診費を12等分にしているということですよね。校納金の明細を明らかにし、検診費の返却を要求します」

ダンテの話をつい聞いてしまったが、今日はレオが家で寝ていることを思い出した。


「ダンテ、今日はレオが家に⋯⋯」

私が言いかけたところで、ダンテは教室を出て子爵邸まで爆走した。

話に夢中になり、彼にとって一番大切であろうレオを一瞬忘れてしまってたのだろう。


貴族は優雅に歩けというが、私も彼を追って全力疾走した。


朝、高熱で寝込むレオを見てダンテは学校に行かず彼の様子を見るといって聞かなかった。

幼児がみんなかかる高熱だし、命に関わるものではない。


「私がついているから、学校に行きなさい」

私はそうやって彼を送り出したのだ。

ダンテはレオを宝物のように思っているようだった。


足の速いダンテより遅れて侯爵邸に到着すると、レオはベットから起き上がっっていた。


「ごめん、俺はもう休むね。レオを宜しく」

ふらふらと部屋を去っていったダンテの後ろ姿を今でも覚えている。

彼は次の日の夕方までいくら起こそうと目を閉ざしていた。


今思えば、あの時だって私はダンテを優先して学校に行ってしまった。

結局、大丈夫だったようだがレオが常に命を狙われていることはわかっていた。

身動き出来ないほどの高熱で幼い彼を置いて、実は放っておいても大丈夫だったダンテを迎えに言ってしまった。


4年間沈黙を続けていたダンテが話しはじめたのが嬉しかった。

久し振りの呼び出しに驚いてしまったことがあったのも事実だ。

でも、「側にいてほしい」というのはレオが今までに言った唯一のわがままだった。


次の日の夕方起きてきたダンテはマラス子爵邸の夫人2人をい質問攻めにしていた。


「どうしてレオを殺そうとするんですか? やめてください。彼があなたたちに何か悪いことをしましたか? 前世で親を殺されましたか? 彼を殺すように洗脳されましたか?」

確かに、レオの命を狙っているような殺意を持った目を2人の夫人はしていた。


何かあったわけでもないのに、急にダンテが怒りを露わにしているのがわからなかった。

いつもの妄言が始まっってしまったとしか思わなかった。


「あの子は頭がおかしいわ。やっぱりあなたの子じゃないのよ。気持ち悪い」

第一夫人にしなだれかかりながらダンテを非難し囁かれる言葉にマラス子爵は頷いていた。


非難されるダンテに対して、朝から目覚め学校に行き賞賛されるレオ。

私はますます誰からも愛されないダンテを愛さねばと思ってしまった。


♢♢♢


出勤2日目だ。

レオの作った夕食はお世辞抜きに美味しかった。

まるで、豪華なレストランのコース料理だ。


「できれば、食事係に立候補させてください。」

彼がそう言ってくれて助かったので、お弁当以外の食事もお願いすることにした。


「いってらっしゃい」

レオが作ったお弁当を持った子供たちを見送って私は出勤した。

また彼の好意に甘えてしまった。


10歳の男の子が兄と自分の弁当を作るのは普通なのだろうか?

分からないけれど、素晴らしい子が私の元に来てくれた奇跡に感謝しようと思った。


「3日後の建国祭の準備を任せます」

行政部に行くと昨日のエレナ・アーデンのメッセージが机の上に置いてあった。

昨日置かれたメッセージ。


そう、建国祭は2日後の明後日だ。


「建国祭の準備って何をするものですか?」

私は恥を忍んで行政部の人間に尋ねた。


「来賓に招待状を出したり、装飾や食事の選定、ダンスの曲順を決めたり、来賓の滞在先の案内とかですかね」

行政官の1人が話してくれた。


それって今から間に合うものとは思えない。

他国の王族を招くなら今からでは間に合わない。


滞在先の案内とはどうしたら良いのか。

未経験の私にどうしてこんな無茶振りをしてくるのだろうか。


「貴族の夫人たちが揃って準備していたと思うのですが⋯⋯」

さっきとは別の行政官が言った。

だめだ、ここには詳しい人がいない。


貴族の夫人に知り合いといえば、アカデミーの保護者たち。

昨日喧嘩を売ってしまったばかりで頼れない。


詳しそうな貴族夫人がいないか皇宮をふらつくことにした。


「やっと会えたね。少し話せる時間をもらえるかな?」

たった今、空から舞い降りたような天使のような男の子に話しかけられた。

銀髪に紫色の瞳、とても優雅なオーラがありで一発で彼がやんごとなき存在だとわかる。


「アラン・レオハード皇帝陛下に、リーザ・スモアがお目にかかります」

私は気がつけば彼に挨拶をしていた。


なんだか、この世の人ではないみたいな可愛らしさだ。

自分の子以外可愛いと思えなかった私も彼を見た瞬間から胸が締め付けられるキュンを感じている。


しかし、12歳だと聞いていてダンテと同じ年だと思った。

ダンテはふらふらしているが身長も高く雰囲気はアンニュイで大人っぽい。

私は皇帝陛下に、年の割には大人っぽいやり手の男を想像していた。


アラン皇帝陛下の行動はとてつもなく男前で目の前の天使のような子と結びつかない。

同じ年だが皇帝陛下はレオと同じ年と言っても疑わないくらい小さく可愛いし純粋そうだ。


こんな方に手を出すなんてエレナ・アーデンはとんでもない女だ。

もはや、犯罪レベルだ。

私は皇帝陛下のエスコートで彼の執務室に入った。




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