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第14話 リーザ、問題児の長男の才能に驚く。

「僕の目指すことを僕のエレナが選んだ宰相に伝えておきたくてね」

彼は人払いをすると、私に言ってきた。


僕のエレナって。

女の名前に所有格を付けて呼ぶ人を初めてみた。


私は一瞬にして、彼が私を欲さないことを確信した。

そういえば、最終面接は皇帝陛下かエレナ・アーデン。

彼はエレナ・アーデンに同等の人事権を与えている。


そして、所有格をつけて彼女を呼ぶことで自分の一部のように彼女を大切にしていることをアピールしているのだ。

皇帝陛下である彼には下心を持って近づく女が多いだろうが、彼の「僕のエレナ」と言う言葉に手を引くはずだ。


「僕は離島を除いた世界の全土を帝国領にする予定だ。その後、僕が退いた後も永遠に全て帝国民の幸せが続くようなシステムを作るつもりだ」

天使のような皇帝陛下が世界征服をすると言っている。


自分の退いた後のことまで考えている。

全ての帝国民って、世界征服した後だととんでもない数だ。


「僕のエレナの選んだダンテ補佐官のおかげで、6年で帝国領を広げる予定を3年に短縮できそうだ。」

皇帝陛下がどこから出てるのかわからないくらい澄んだ可愛らしい声で続けてきた。

ダンテとは私の愛しい問題児の長男と同じ名前だ。

たくさん考えてつけたのに同じ名前をつけた人がいたなんて残念だ。


「彼は本当にすごいよ。僕のエレナの言う通りだった。エスパルには素晴らしい人材が潜んでいたんだんね」

皇帝陛下が地図を広げながら言ってきた、その所作は見惚れるほど美しい。

エドワード様の言う通り、天界から迷い込んだようなオーラがある。・


その地図を見てハッとした。

これは、私の宝であり問題児扱いされてきたダンテが書いた地図だ。


エスパルの絵画授業で花瓶を書くように言われたのに、ダンテは首都の地図が書いた。

見たことないくらい詳細な地図だった、まさに目の前に広げられている地図と同じように。


私は教師から呼び出された。

「全員が同じ花瓶を描いては面白みに欠けるので地図を書いたまでです」


ダンテは堂々と言い放っていた。

地図は縮尺まで正確で不気味なくらい詳細で、子供のお絵描きには見えなかった。

それが彼が普通ではない子だと表しているようで好きではなかった。


「言われた通りのものを描くのが授業だからね。」

私はダンテを叱った。

弟のレオは叱った経験がないのに、私は毎日のようにダンテを叱らなければならなかった。

「当たり前のことを当たり前にやりなさい。」

私が口酸っぱく彼に言っていた言葉だ。


「人それぞれに違う当たり前を、俺はいつだって実行しています」

彼は弁がたったので、私にもどう扱えば良いかわからなかった。

ただ、諦めずに接しているうちに彼にも活躍できる場がきっとくることを願った。


「10年前にエスパル全土を周遊した経験があったらしく、彼は詳細な地図を書いてくれた。僕の油断のせいでヴィラン公爵にエスパルの全体図は消されてしまっていたから困っていたんだ」

皇帝陛下が見せた地図はエスパル全土の地図だった。


私はダンテが2歳の時、とにかくエスパルの隅から隅まで彼を連れて彷徨った。

自分が生きていける場所を見つけたかったからだ。

彼はあの時の記憶があったということだ。


「あの⋯⋯私の息子のダンテですか?」

まさか、世界中から注目されているアラン皇帝がうちの問題児を誉めているなんてことあるのだろうか疑問を感じつつも尋ねた。 


「他に誰がいるの? 謙虚な方なんだね、スモア伯爵は。彼はとんでもない天才だよ。僕のエレナが10年のエスパルの工事記録を持っているから、合わせると未開だったエスパルの全貌が見られた」


彼の言葉に驚いた、私は自分は自意識過剰で謙虚な人間だとは思っていなかったからだ。

でも今くすぐったくなるくらい嬉しくて私の宝物ダンテを理解してくれる人が現れて、それが帝国の皇帝だったことに胸がいっぱいになった。


「それでね、ダンテ補佐官の言う通りこの星印がついた所に地下道を通そうと思うんだ」

皇帝陛下が可愛らしい笑顔を向けていってくる。


彼は計算でこのような表情を向けてくるのだろうか、教会で懺悔をするようにこの可愛らしさの前に何もかも話してしましそうだ。


だって能面のような表情をするのが貴族や皇族の基本のはずだ。

人払いをしたところで、帝国の皇帝が無邪気な誰もが見入る可愛さで私の心配な息子を褒めると言う夢のような行為はとてつもない破壊力だ。


「地下道、天井をガラス張りにして川の中を見せたらどうですか?」

私は皇帝陛下の表情に見惚れてしまっていたが、ふとダンテとレオの会話を思い出して提案していた。


私はアカデミーから家に帰る途中、毎日のように首都の川で彼らに泳ぐ訓練をした。

確かレオ4歳、ダンテ6歳の時、地下道について2人が会話をしていた気がする。


「荒天が多いエスパルにおいて、木の橋を作るとは愚行だ川の下に地下道を作るべきだ」

ダンテが橋を指差しながら言った。


首都と平民の住む地域の間には、彼らを断絶するように川が流れていて木の橋が通っていたが渡るのも怖いくらい朽ち果てていた。


私は川でさえ窪んでいるのに、その下に地下道を通すというのが信じられなかった。


「さすが、兄上です。ガラス張りにすれば川の中が見れて楽しそうですね」

レオがダンテに楽しそうに応じていた。


「水圧に耐えらる強化ガラスが、ヴィラン公爵邸で使われている。取りに行こう!」

ダンテがそう言うと、「それは窃盗ですよ。」とレオが楽しそうに応じていた。


私はレオは相変わらずダンテの妄言に付き合って偉いと思った。

そして、ダンテがヴィラン公爵という名を出したのでどこかで聞かれてはまずいと思い話をやめさせた。


でも、今ダンテが帝国で認められているのだとしたら、天才レオにしか理解できない発想をダンテも持っていたのではないだろうか。


こんなの問題児を持つ親が我が子には特別な才能があると信じてしまっているだけかもしれない。

川の底に道を作って、川の中を見せるなんて話は普通なら笑われるし私も馬鹿なこと言ってないで泳ぎなさいと注意をした。


「さすが僕のエレナが選んだ宰相だね。スモア伯爵は。この地下道はリース子爵領の起爆剤になりそうだ。」

皇帝陛下が発したリース子爵領との言葉にハッとした。


リース子爵領とはエドワード様の領地だ。


「隣接する3つの国は、1年以内には帝国領になる。この辺りは荒天が多いから天候に関係ない地下道を通すのが良い」

天使のような姿をしている彼は1年以内にまた帝国領を増やすと言っている。


「リース子爵は観光に植物園を作るとおっしゃっておりました。荒天だと植物は育ち辛いのではないでしょうか」

咄嗟に私は皇帝陛下に進言した。


跪いて土を採取するエドワード様の努力が無駄になるのだけは嫌だった。


「植物園の話は初めて聞いたよ。全天候型にしよう。地下道の件も併せて試験的なものとすれば国庫から支出できる」

アラン皇帝が嬉しそうに言った。

彼が問題視されているリース子爵領にいかに他の貴族から不満を受けないように国庫から資金を出してあげようとしているかわかる。


宰相になった私の前で子爵領を贔屓するように仄めかすということは、予算案ができたら予算を速やかに通すように言っているのだ。


アラン皇帝は恐ろしい。

レオの提案をネタではなく実現可能だと理解できることから、彼も特別な天才だと分かる。


そればかりではなく、このどんどん気分良く人を話させてしまう雰囲気は何だろう。

この雰囲気のまま何でも話してしまいそうだ。


雰囲気に流されてエレナ・アーデンの怖さを打ち明けたりしなかったのはアラン皇帝がレオに似てたからだ。

私はレオに腹の中では何を考えているかわからない怖さを感じていた。


アラン皇帝はレオのように人を惹きつけて離さない魅力がある。

誰もが彼に惹かれ癒され愛してしまうだろう。


でも、もしかしたら言葉とは違う何かを考えている可能性がある。


僕のエレナと言うほど信頼している彼女には全てを話しているかもしれない。

私は、注意して彼と会話をしようと思った。


「あの、先程から気になっていたのですが、ダンテは補佐官になったのですか?」

私の質問に皇帝陛下が意外そうな顔をした。


「アカデミーを今朝卒業して、僕のエレナにの補佐官になったんだ。最短卒業記録だ、彼ほど優秀だと当然かもしれない。彼の力がすぐにでも欲しくて彼女自らアカデミーに迎えに行ったんだよ」

皇帝陛下の言葉がにわかには信じられなかった。









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