大通りを歩くと、
暖かい色の街灯がついている。
街灯のそばに、からからと鳴る青白い歯車。
ネジはそれに気がつき、
あたりをぐるりと見ながら歩いた。
車を運転しているときは、わかりにくかったものが見える。
店の軒先らしいところに、青白い歯車。
人が運転するトラックが、排気を出さずに通り過ぎていく。
動力が違うということなのかもしれない。
そこかしこに青白い歯車がある。
「サイカ」
サイカが立ち止まって振り向く。
「あれが歯車?」
「そうだ、青白く光るあれだ」
「どういう仕組みなの?」
「説明すれば長くなる」
サイカは真面目に眉一つ変えずに言う。
本当に長くなりそうだとネジは思った。
「ならあとで聞く」
「そうか」
「とにかく宿を取ろう」
「そうだな」
二人は大通りを歩き、まもなく町の宿を見つけた。
一階は酒場になっている。
ふらふらに酒場を目指しそうになる、ネジの首根っこを捕まえて、
二人は宿に部屋を取った。
ベッドが二つ並ぶ部屋に入ると、
ネジは狭い部屋の中を探検し始めた。
真っ赤な前髪のいい年したであろう男が、
嬉々として狭い部屋を回っている。
サイカは執事服の上着を脱ぐ。
ハンガーがあったのでつるす。
「サイカぁ」
「うん?」
「シャワールームも歯車なのな」
「生活の基本だからな」
「シャワー浴びていい?」
「かまわん、好きにしろ」
ネジは黒い服を脱ぎ出す、
そして、違和感に気がつく。
「あれ」
「どうした」
「俺、何でこんなものを持っているのかな」
ネジはコートの内側の腰から、
銃を取り出す。
それは間違いなく銃で、やや大きめだ。
銀色にきらきら光っている。
ネジが気がつかなかったのは、
重さが少ないのか、
ネジが記憶を飛ばしているのか。
サイカはどちらも問わない。
わかっているようだ。
「その銃は、お前にとって必要なものだ」
「そうなの?」
「いずれわかる」
ネジはしげしげと銃を眺める。
手に取り、重さを確かめる。
「結構重い」
「そうだろうな」
「何で忘れていたのかな」
「お前にとって自然だったからだろう」
「そっか…」
ネジはぎゅっと銃を抱きしめてみた。
ちょっと女々しい気もするが、
忘れていたことへの謝罪みたいなものだ。
ネジは銃を置く、
「それじゃサイカ、ラプターを頼むよ」
ネジは言い残してシャワールームへ行こうとする。
「ネジ」
「うん?」
「思い出したのか?」
「何が?」
「ラプター。銃の名前だ」
「あー…」
ネジは説明ができない。
とっさに出てきたのかもしれない。
「まぁいい」
「そっか、それじゃね」
サイカもそれ以上問わず、
ネジはシャワールームへと入っていった。
ネジはシャワーを浴びる。
真っ赤な前髪がかまわずぬれる。
どうしてラプターだと知っていたのだろう。
ネジは上から落ちてくるお湯を浴びながら考える。
ネジには確たる記憶が少ない。
運転ができること、これはどうにか。
サイカは悪いやつじゃないということ。
たぶん悪いやつならネジを拾わない。
拾わない?
拾われた?
ネジの中では、そのあたりも曖昧だ。
とにかく身体をさっぱりさせることにする。
それからあとでこっそり酒場に行こうと計画する。
ラプターもやっぱり持っていくべきだろうか。
銃がどういう意味合いを持っているのか、よくわからないが、
今まで自然に腰にいたのだから、
やっぱり連れて行くべきかなと思う。
盗まれたら。
そしたらどうしよう。
「そのときはそのときかなぁ」
ネジはぼんやりつぶやき、身体を洗った。
わからないこと、曖昧なことがまだ多い。
サイカはすべてを教えるわけではないらしい。
ならば、ネジがどんどん知る余地がまだあるってことだ。
青白い歯車がシャワーの下で回っている。
これが基本らしい。