ネジはサイカの肩を借りて、
どうにか部屋まで戻ってくる。
とろとろうとうと。
どうにもごちゃごちゃしていけない。
サイカがネジをベッドに投げる。
「うー」
「酔いがさめるまで横になってろ」
「はーい」
ネジはおとなしく横になる。
違和感があった銃のラプターや、
ケープやコートをもぞもぞして取り外す。
そして改めて、ぐったり横になる。
地酒は意外ときつい。
何という酒なのか覚えておいたほうがいいかな。
ネジはまどろみつつ、そんなことを考える。
カーン…カーン…
遠くで鐘が鳴っているような感じがする。
「誰か死んだな」
サイカがつぶやく。
「うん?」
ネジはちょっとだけ意識を持ち上げて、問う。
「教会の鐘があんなふうに鳴るのは、誰かが死んだ合図だ」
「そうなんだ」
「この町の聖職者が、きっと明日あたり弔いをするだろう」
「ふぅん…」
ネジはまどろむ。
弔うってどうやるんだろうとか、
ネジの中で疑問はあるし、
聞きたいことだって、いろいろある。
でも、なんだか眠い。
かなり酔いが回っているらしい。
サイカがラジオをつける。
音楽が流れる。
どこの音楽だろう。
金属のような、または穏やかな木のような。
ここに声を乗せてもいいかなぁと考え、
ネジは夢の中に落ちる。
歯車が回っている。
大きな歯車だ。
青白く輝く歯車。
なんとなくではあるが、
ネジはこれが喜びの歯車である気がした。
何で喜びなんだろう。
ネジはそんなことを思う。
ああ、夢の中でも記憶がないんだと思う。
たん、たん、たん
歯車がステップするように回る。
誰かがリズムを取っているような気がする。
ああ、喜びのリズムだ。
ダンスしているんだ、
走っているんだ。
なのに、ネジは、夢の中のネジは、
喜びに乗れない。
喜んでいる、楽しんでいる。
そのスピードに合わせることができない。
なんでだろう。
喜ぶことはいいことなのに、
内側が合わさってくれない。
記憶がないからだろうか。
それよりもっと根本が同じで違う気がする。
こん、こん
ネジの夢はそこで途切れる。
こん、こん
「誰だ」
サイカの声が聞こえる。
足音。
サイカがドアまで行くらしい。
ネジは身を起こした。
ふらふらするが先ほどまでよりはよくなった。
「夜分すみません、聖職者様がいると聞いて…」
「いるが、祈りも忘れている」
サイカが答える。
相手は女性らしい。そんな声がする。
若いのかもしれない。
「弔ってほしいのです、お爺様を」
「それなら町の聖職者でも…」
「弔いの銃弾がないと言われて…」
弔いの銃弾?
それはなんだろうかとネジは考える。
「中央都市に問い合わせれば、銃弾の再受付ができるのでは?」
「お爺様は、あの戦争のときにすでに銃弾を使ったと聞きます」
「なるほど、それで」
「命を殺したものは弔ってもらえないと…」
「お爺様が、罪人と同じように腐らせてしまうわけですか」
「そんなの、耐えられなくて…」
女性が言葉を途切れさせる。悔しいようなつらいような。
そして、サイカが答える。
「わかった、祈りと弔い、引き受けよう」
「本当ですか!」
女性は、はじかれたように答える。
「聖職者の祈りではないが、俺も祈りは覚えている」
「弔いの銃弾は…」
「記憶をなくした聖職者が持っている。明日教会に行こう」
「では時間は…10時に」
「わかった」
女性が去っていく気配がする。
サイカがドアを閉めた。
「とむらい?」
「ああ、その銃で行う儀式だ」
「ラプター」
ネジが先ほど自分の身から離した銃を拾う。
大きな銃。
ネジの身にとてもなじむ銃。
「俺、何も覚えてない」
「祈りの文句と手順は俺がやる」
「でも」
「お前はそのときに指示するように引き金を引け」
「あ、銃弾…」
「心配するな。すべて大丈夫だ」
サイカは言い切った。