次の日の朝。
ネジはごちゃごちゃした夢で目を覚ます。
ウサギが追いかけてきた気がする。
なんだかたくさんだ。
落書きみたいなウサギが、
なんだかいっぱい。
そこまでは覚えているが、
問われると多分ちんぷんかんぷんだ。
ネジが目を覚ますと、
サイカはすでに身支度を整え、
ラジオを聴いている。
あくびをすると気がついたらしい。
「葬儀に出る。とりあえずシャワー浴びて身支度を整えろ」
「はーい」
ネジは起き上がる。
二日酔いっぽい感じはない。
ガツンと来るが、引きの早い地酒らしい。
それにしても喉が渇いた。
シャワーを浴びて身支度を整える。
ネジがシャワーから出てくると、
サイカは昨日のように頭を拭く。
わしゃわしゃと。
とりあえず早めの朝食を取る。
昨日の酒場で軽食をやっていた。
チーズサンドがうまい。
渇いた喉に野菜ジュースがうまい。
これも青白い歯車の産物で、
昔は野菜ジュースには、とても労力がいったらしい。
サイカは静かにコーヒーを飲んでいる。
「それもこれも喜びの歯車のおかげだよ」
おばさんは笑った。
10時を前に、
二人は教会に向けて歩き出す。
車は今日いっぱいかかる見込みだ。
まぁ、サイカが急ぐ旅でないといっていたし、
ネジはのんびり歩く。
黒いコートと、黒いケープがひらめく。
サイカが昨日と同じ、
黒い執事服で前を歩いている。
「サイカ」
「うん?」
サイカが立ち止まる。
「葬儀って何をするんだ?」
「昨日頼まれたことだ」
「いのりととむらい?」
棒読みでネジが返すと、サイカはうなずいた。
「祈りは俺が担当する」
「だから俺は記憶が」
「引き金を引くだけだ」
「だから銃弾が」
「大丈夫だ」
サイカが微笑む。
「俺が大丈夫といったことは、大丈夫だ」
ネジは一瞬あっけに取られる。
サイカはこんなに自信に満ちていただろうか。
「ほら、いくぞ」
サイカは歩き出す。
ネジはあわててそのあとを追った。
腰にはラプター。
忘れていない。
教会には少ない喪服の人がいた。
ネジは思う。
きっと弔いの銃弾がないからだ、と。
昨日サイカが言っていた。
罪人のように腐らせるのかと。
「ええと…」
ネジは一人でつぶやき、考え出す。
昨日の女性のおじいさんは、
弔いの銃弾を使ってしまった。
で、戦争で人を殺した。
命を奪うのは罪人だから、
おじいさんは腐らなくちゃいけない。
弔いの銃弾は、
よくわからないけれど、腐らせない効果があるらしい。
そんな銃弾この銃にあったっけ?
ネジは首をかしげ、ラプターをいじる。
銃弾が入っている以前に、
銃弾というものを入れる場所がないんじゃないか?
じゃあこれは何だ?
銃じゃないのか?
でも、銃だよなぁ、多分。
引き金引いても何もでないぞ、と、ネジは思う。
でも、サイカは自信満々だ。
まるでネジとラプターのことを知っているみたいに。
ネジは首をかしげる。
サイカはネジの過去を知っているのかな。
ネジが記憶をなくす以前のことを知っているのかな。
記憶をなくしたネジを拾ったのじゃなくて、
ずっと前から一緒だったのかな。
そんなことを思う。
ネジはラプターを握る。
瞬間、ネジの身体を何かが駆け巡った感じがする。
感覚としては、痛みにちょっと似ている。
一瞬のことだったので、よくわからない。
反射的に、ネジはラプターを落としてしまった。
ガツンと重い音がして、
ラプターが地面に落ちる。
「ネジ」
サイカが振り向く。
「あ、ごめん」
ネジはなぜか謝る。
多分ラプターは大事なのだ。
弔うにあたって、とても大事なのだ。
「まだ慣れていないんだろう、しばらく腰に下げておけ」
「あ、うん」
「そのときが来たら言う」
ネジはこくこくとうなずいた。
サイカを信じてみよう。