窓の外でゆっくり星が瞬きだす。
音楽は流れる。
違う曲を、沈黙を挟みながら。
ネジは少しずつ、サイカからこの世界の事を聞こうとする。
けれど大抵聞いたことで、
核心に触れるようなことは話してくれない。
サイカは知っているのに。
ネジは少しだけいらいらする。
もどかしいというか、そんな感じ。
多分記憶をなくす前は知っていたのに、
そしてサイカは知っているのに、
少しでも踏み込むのは、はぐらかす。
ネジはベッドに横になったまま、ため息をつく。
この世界すらわかんないのに、旅ができるものだろうか。
サイカがベッドの端から立ち上がる。
ネジのほうのベッドに近づくと、
ネジの黒い帽子をちょこんとネジの頭に乗せる。
「晩飯を食いに行くぞ」
「おなかすいてない」
「少し食べておけ」
ネジはしぶしぶうなずく。
宿から下りて酒場へ。
おじさんとおばさん、
そして、お客が何人かいてにぎわっている。
「よー!」
甲高い声がかかる。
見れば修理工場の禿のおじさんだ。
「ひと段落ついたから飲みに来たんだ」
「どうです、具合は」
「車の具合は、かなりよくしておいたよ」
「よかった」
ネジはうなずく。
おじさんも地酒を飲みながらうなずく。
禿頭が真っ赤だ。
「燃料の予備は必要かい?」
ネジはサイカのほうを見る。
行き先を決めるのは、多分サイカだ。
「頼む」
サイカが短く答える。
禿のおじさんはうなずいた。
「それじゃ山のほうに行くのか」
「そういうことだ」
「あー、それじゃ噂は聞いたかい?」
「港町のか?」
「ちょっと関係あるかもしれないなぁ」
おじさんが地酒を飲む。
そして、声をひそめて話し出す。
「山の中の町、あそこには召喚師の一族がいるって話だ」
サイカの眉がちょっと上がる。
「なんでもな、中央から認められて、地方に派遣された召喚師でな」
「ふむ」
「それがあの町にいるって話だけど」
「だけど?」
「なんでもな、港町で召喚をしたらしいって話があるから、トランプが動いてるってな」
「それって…もがもが」
サイカがとっさにネジの口をふさぐ。
ネジも悟って黙る。
これは大事なことだ。
黙っていないといけないことだ。
「おじさん、地図ある?」
ネジは声をかける。
「あいよ、明日の道かい?」
「そういうこと」
ネジは答え、カウンターから地図を受け取る。
禿のおじさんと、サイカと、ネジで地図を囲む。
「ここがこの町、ゲンの町って言うんだ」
「ふむ」
「で、この線が街道で、こっちが港町リズ」
「こっちが山?」
「そう、街道沿いにマーヤの町がある」
「マーヤ」
「そこに召喚師一族がいるって話だよ」
「ふぅん…」
ネジは興味を持つ。
もしかしたら、サイカの技は召喚なのかもしれない。
「おやじ」
サイカが声をかける。
「なんだい兄さん」
「召喚ランクまでは伝わっているか?」
「さぁなぁ」
禿のおじさんは首をかしげる。
「地方派遣なら、いっても三級なんじゃないのかい?」
おばさんがチーズのお皿をテーブルに置く。
置きながら得意げに話す。
「さんきゅう?」
ネジがたずねる。
「なんでもね、命を物のようにする召喚とかあるらしくてね」
ネジの脳裏に先ほどのサイカの言葉が走る。
「五級くらいランクがあるって聞いたよ」
「おばさん物知りだ」
「ほめても何もでないよ」
おばさんはうれしそうにネジの背中をたたく。
サイカがため息をつく。
そして、サイカは話し出す。
「召喚には何種類かあって」
「ふむ」
「熱量召喚、登録召喚、物理召喚とか言われている」
「どれもわかんない」
ネジは情けなく答える。
「命を物のように召喚するのは登録召喚だ」
「とうろく?」
「中央都市に登録されている命を、召喚師が召喚する。そういうものだ」
「登録しないのも呼び出せる?」
「その場合は非登録召喚といい、犯罪だ」
ネジはちょっとだけ考える。
命を物のように。
そういうシステムがあるのかもしれない。