「召喚師かぁ」
ネジはため息をつく。
またわかるような、わからないようなことが増えた。
そして考える。
多分、港町リズで召喚をしたというのは、
サイカのことだろう。
そして、トランプが追っているのも多分サイカだ。
で、召喚なんてするのは、
山の中の町、マーヤのほうにいると。
召喚師が一族でいるらしいと。
トランプは街道を通って、多分マーヤを目指すのだろう。
「うーん…」
ネジはさらに考える。
サイカは技を使ったと、ネジは思った。
リズでチンピラを倒したとき、ネジは技だと思った。
召喚なんて言葉は出てこなかった。
記憶がないせいかもしれない。
でも、命を召喚したりとかはしなかった。
とりあえずサイカは追われている。
助けたいけど、どうしたらいいものだろう。
とりあえずこの場は、サイカの召喚のことを黙っているのが一番かもしれない。
「それにしても、みんな物知りだね」
ネジはみんなを見回しながら感心する。
「娯楽がないからねぇ」
禿頭のおじさんが地酒を飲む。
「そう、ラジオのニュースとか、中央都市から出ている新聞とか」
「そんなのあるんだ」
ネジははじめて聞くことばかりだ。
サイカはラジオで音楽しかかけない。
ニュースがあることを意図的に隠していたに違いない。
「新聞はね、新聞師という職業の人が配るんだよ」
「しんぶんし?」
「伝道機というのがあってね、それを扱うのを中央都市で叩き込まれるんだよ」
「へぇ」
「でもって、伝道機を持って、あちこちの町に派遣されるんだ」
「これも派遣なんですね」
「そうなんだよ」
「それで、伝道機っていうのは?」
「伝道機っていうのは、物事を文字にして伝える機械なんだ」
「へぇ…」
ネジは考えられない。
いったいどんなものだろう。
禿のおじさんは続ける。
「地方の新聞師が、町であった一大事を、中央に送る。このとき新聞師が文字にするらしい」
「ふむふむ」
ネジはうなずく。
よくわかんないけど、伝道機って言うので送るのだろう。
「そして、中央都市の新聞師が届いた事件を選んで」
「ふむふむ」
「で、新聞にして、伝道機で送る」
「なるほど」
「そうして、読みやすくなった新聞が、町の新聞師から届くのさ」
「よくわかりました」
禿のおじさんは頭をぴしゃりとたたいて見せた。
「いや、便利になったね」
「話を聞いているとそう思います」
「それもこれも、喜びの歯車のおかげさ」
「新聞も?」
「新聞もラジオも、伝道機だって喜びの歯車の動力を元にしているからね」
「ああ、そうか」
ネジはちょっと失念していた。
動力がなければ動かない。
「それに、召喚師も新聞師もそうだけど」
「どうなんですか?」
「中央都市に交信をして、こうね、情報を交換するんだ」
「交信?」
またわからないことが出てきたとネジは思う。
「おやじ」
ボソッとサイカがさえぎる。
「こいつは物をあまり知らない。詰め込みしすぎると混乱する」
「ありゃ、そうなのか」
禿頭のおじさんが、自分の頭をたたいてみせる。
「そりゃ失礼。いろいろ語りたくなるんだよ」
「わからないこといっぱいだけど、楽しかった」
ネジは素直に言う。
禿頭のおじさんは、笑った。
「世の中広いからな。七つのグラスをめぐればもっといろいろわかるさ」
「うん」
ネジはうなずいた。
晩飯を食べて、お酒は飲まずに、
いつものように宿代につけてもらって、
部屋に戻ってくる。
ネジがシャワーを浴びて、
ネジの頭をサイカが拭いて、
サイカがシャワーを浴びる。
ネジは寝巻きに着替えて音楽を聴く。
ニュースも聞けるらしいけれど、
ネジはいじるのが怖い。
顔にかかった赤い前髪がしっとりと。
「どうしようね」
部屋でネジがつぶやく。
知りたいこと、新しく聞いたこと。
召喚師のこと、新聞師のこと。
サイカのこと。
知らないことがたくさんあるなと感じた。