二つ並んだベッドに、
それぞれ二人はもぐりこむ。
ラジオは止まって、夜は静かだ。
ネジは聞きたいことが、いっぱいあったけれど、
サイカの「早く寝ろ」と、一言で終わらされてしまった。
残念だけど、ネジはあきらめてはいない。
明日もまたお日様は昇るし、
明日に聞いたっていいのだ。
ネジは眠る。
青白い歯車に誰かが乗っている。
ステップを踏んでいる。
ウサギが追ってくるから、ここから離れないと。
また戻ってこないと。
ネジは透明の歯車に乗る。
また戻ってこなくちゃ。
たん、たん、たん。
ステップが聞こえる。
遠くで、ステップを踏んでいる音がする気がする。
ネジはまぶしいと思った。
そして、目を覚ました。
ラジオが聞こえる。
踊るような曲がかかっている。
顔を向ければ、サイカはすっかり準備が整っている。
ネジは身を起こした。
スプリングがなる。
「起きたか」
「うん」
「準備をしろ、すぐに行く」
「朝ごはんは?」
「弁当を作ってもらっている」
サイカは抜かりない。
ネジは納得すると、朝のシャワーを浴びた。
聖職者のいつもの黒服に着替え、
帽子をちょこんと頭に乗せる。
ラプターも持った。
忘れ物もない。
宿で料金を払い、
ネジはおじさんとおばさんに挨拶する。
おばさんがお弁当を作ってくれた。
おいしいチーズの入ったお弁当だと説明してくれた。
「また、地酒飲みに来ますね」
ネジはそんなことをいってみる。
世界は広い、グラスは七つある。
一つのグラスがどれほど広いのか、
ネジは想像もつかない。
多分世界は広い。
その中で、おいしい地酒にまた出会えること。
それはとっても幸せなことのように思った。
「またおいで」
おじさんとおばさんが見送った。
青白い歯車のあちこち見える、
朝の町並みを歩く。
少し狭い道を入ると、
修理工場に出た。
サイカが先にたつ。
ネジは後から追いかける。
修理工場の中を見渡して、
禿頭のおじさんを見つける。
「おじさん」
ネジが声をかける。
おじさんは甲高い声で答えた。
「お、もうきたのか」
「朝一で出ようと思って」
「準備はばっちりだよ」
おじさんは親指をぴっと上げる。
ネジは鍵を受け取る。
サイカが支払いをした。
「トランクに予備の燃料がつんである」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いいんだって。エンジンいじくれて楽しかったさ」
声がとてもうれしそうだ。
ネジとサイカは乗り込む。
ネジが運転、サイカが助手席だ。
「じゃ、いってみます」
「おう、元気でな」
ネジはエンジンをかける。
古臭くも元気な音を立てて、エンジンが動き出す。
回すハンドルもいい感じだ。
ネジはおじさんに向かって礼をすると、アクセルを踏んで走り出した。
小さな丸い、黄色い車。
ぼろぼろだけど元気になった車。
歯車の構造を持っていない車。
ネジは町の大通りを走る。
朝日がきらきらしている。
お日様ってものはいいものだなと思う。
「来たか」
サイカが助手席でつぶやく。
「トランプ?」
「遠くではあるが、目立つマークが書いてあった。おそらく」
「少し飛ばそうか」
「悪くない」
ネジはうなずいた。
そして、バックミラーをチラッと見た後、アクセルを踏む。
一路マーヤの町に向けて、
車はそれなりに加速して進む。
町を抜けると広い草原。
街道の土の道が山に向かって続いている。
「みんないい人ばっかりだったね」
ネジが思い出しながらつぶやく。
「こんな風に記憶を重ねていけるなら、いいな」
「お前には記憶がないからな」
「サイカぁ」
「うん?」
「俺、何で記憶がないの?」
「転んで頭を打ったことにしておけ」
「かっこ悪い」
「説明してわかるようになったら、話すかもな」
「なんだよそれー」
ネジは頬を膨らます。
町から離れて、車はゴトゴト走っていく。