宿に置いてある荷物を持って、
部屋を引き払う。
不思議そうな顔をされたが、
いちいち説明しているものでもない。
ネジとサイカは車に向けて走る。
崖に囲まれた町、
めったなことでなければ、トランプは街道から来る。
ネジはとりあえずそう思う。
番人さんは、どうしているだろう。
歯車をロックするとか何とか、サイカが言ってた。
それを用いれば、一時的にもトランプを足止めできるだろうか。
首尾よく広場の車までやってくる。
小さな黄色い車に、荷物をつむ。
つんでから、大声が聞こえた。
「トランプに逆らうとは何事だ!」
一言でわかった。
来たのだ、トランプが。
ネジは車のエンジンをかける。
サイカが助手席に乗り込む。
「どうする?」
サイカが問う。
「どうもこうもないよ」
「逃げるか?」
「冗談!」
ネジは街道側の門まで車を走らせる。
門番の男が殴られている。
ネジがスピードを上げて接近すると、
殴っていた男はあわてて逃げた。
サイカは車を降りる。
ネジも降りる。
「十人」
サイカがつぶやく。
「何だお前たちは!」
男が叫んだ。
ネジはしげしげと男たちを見る。
黒い帽子、赤い帽子、白い服に、胸の辺りに数字。
思い思いの武器を持っているらしい。
なんだか歪んでいる武器のような気がする。
これがトランプという役人。
命令をされて、ザニ家を殲滅するというやつら。
「お前たちも邪魔をするのか!」
「痛い目を見たくなければ、さっさとどけ!」
「あの男のようになりたくなければな」
トランプが口々に何かをわめく。
一人があごをしゃくって番人を示す。
あんなふうに殴られるぞ、もっとひどい目にあうぞということを示したらしい。
トランプは笑った。
げらげらと笑った。
「ネジ」
サイカが呼びかける。
「武器を狙え」
「わかった」
ネジはラプターを抜く。
サイカが構える。
覚えている。
サイカのこの構えは、港町でのあのときの構えだ。
ネジの内側で透明の歯車がぐるぐる回る。
感じる。
ラプターを通して、いくらでも撃てそうに感じる。
今までとは少し違う感覚。
弔うのではない。
これは、この瞬間、
武器になっているのだ。
ネジはラプターの引き金を引く。
狙いはやつらの武器。
三発撃って、跳躍。
ふわりと身体が軽い。
ネジは宙を舞い、もう三発撃ち込む。
六発、武器に着弾する。
トランプの武器は、一瞬歪んで、赤い液体になって崩れた。
「ひゃあ!」
トランプの笑いが止まる。
ネジは降り立つ。
ネジの内側で猛烈な勢いで歯車が回っている。
「俺のフラミンゴがぁ」
「また登録すればいいだろ、所詮道具だ」
「こいつらも殲滅してしまえ!」
トランプが叫んでいる。
サイカが、構えから、右手をすっと動かす。
手袋をしていても、その内側の手が赤く輝いているのがわかる。
サイカが赤い手をもって、空中に何かを描き出す。
祈りの言語と同じ言語で。
「召喚」
唱えて、赤い右手が指を鳴らす。
地震。
そして、岩の針が地面から。
瞬時にして立ち上る。
あるトランプは串刺しになり、
運のいいものは岩の針の間で呆然とした。
「のぼれ」
サイカは右手をすっと上げる。
岩が空へ上る。
「おちろ」
すっと右手を振ると、
岩は残りのトランプをめがけて、
弾丸のように降り注ぐ。
それだけだった。
サイカはそれだけすると、
「戻れ」
と、唱え、
右手の指を鳴らす。
赤い右手は手袋の普通の右手に戻り、
岩の生えていた大地は、
トランプを一瞬で飲み込んで、
平らな台地に戻った。
マーヤの町の入り口には、
傷を負った門番と、
フラミンゴと呼ばれた武器だけが残っていた。
「この武器も撃っておいたほうがいい」
ネジはフラミンゴを撃った。
さっきのように、赤い液体になって全部崩れた。