二人は車に乗り込む。
サイカに地図を渡して、
ネジはキーを回す。
車が目覚めたかのように、震える。
「それじゃ、次はどこに行く?」
「少し長くなるが、転送院を目指す」
「転送院?来た方向じゃない?」
「転送院はひとつのグラスに2つはある」
「ふむ、それじゃ、来たのとは違うほうに行くんだね」
「そういうことだ」
「どういう道を行くの?」
サイカが地図を広げる。
目印の少ない地図だ。
実際、砂漠ばかりなのだろう。
「多分見づらいが道がある。そこをたどっていく」
「ふむふむ」
「この地点で」
サイカが指をさした地点がある。
分かれ道だ。
町のほうに行く道と、転送院に行く道と、らしい。
「そこにきたら指示する。とにかく行くか」
「うん」
ネジは慣れた手つきで車を発進させる。
どこでこんなことを学んだのかなとちょっと考える。
何せ記憶はほとんどない。
車がスムーズに走る。
「止まらないでくれよ」
ネジがなんとなしに声をかける。
車は聞いているのかどうかわからないが、
ぶるると、いつものように走った。
砂漠を小さな黄色い丸い車が走る。
砂埃が上がる。
遠くに岩の塊が見えたり、
やっぱり緑は少ない。
目印もない。
「転送院いって、次はどこにいくの?」
ネジは前を見ながらたずねる。
「グラスシャンだ」
「ふむ」
言われてもネジはわからない。
「それはどんなところなの?」
「海と山の入り混じったグラスだ」
「ふーむ?」
ネジはイメージがわかない。
「船で行きかう技術と、空を飛ぶ技術が特化している」
「空飛ぶの?」
船まではネジもわかる。
基本的な情報なのかもしれない。
でも、空を飛ぶ技術?
ネジはイメージしようとする。
どんな風に空を飛ぶのだろう。
翼があるのだろうか。
この両手に翼を持って、羽ばたくとか。
大きな青い空を、自由気ままに飛べるのだろうか。
海の青さの上に、空の青さで、
翼を持ったものが飛んでいる。
素敵だなぁとネジは思う。
「前を見ろ」
サイカの声で、ネジははっと我にかえる。
空を飛ぶことをイメージしていたら、
どうも砂漠のことを忘れていた。
いけないいけない。
ネジは障害物のない砂漠を、アクセル踏んで飛ばす。
気温は上がってきている。
空調ががんばってくれているが、
古いものだしどうにかしなくては。
まず一刻も早く転送院にいって、
グラスシャンまでいって、
そして調整してもらおう。
きっと技術者がいるはず。
「あつーい」
ネジはぼやく。
「しっかりしろ」
「でも暑いよ」
「空調は最大だ。外に出たらひどいぞ」
「うー」
「わめくのは勝手だが、わめくと気分が悪くなるぞ」
「…はーい」
ネジはため息をひとつ。
わめいたって涼しくなるわけじゃない。
わかっているけどぼやきたい。
がまんがまん。
しばらく平坦な砂漠を走る。
目印がなくて、本当にあっているのか、わからない。
サイカは地図と見比べている。
ネジは道をはずさないようにして走らせる。
くだらない話を織り交ぜながら、
車は走る。
黙っていたら、緊張が切れて眠ってしまいそうだ。
それはすごくよくないことだ。
ネジはじっと遠くを見る。
分かれ道を遠くに見る。
「あれだ、左」
サイカが指示を出す。
ネジはその通りに車を走らせる。
右のほうから、遠くに車の影が見えた気がした。
「車が見えたね」
話すこともないので、ネジはそんなことを言う。
「トランプの車だなあれは」
「それじゃ、ズシロの町に行く途中かな」
「そうかもしれない」
ネジは考える。
あのままいたら、面倒なことになっていたかもしれない。
トリカゴと子どもは大丈夫だろうか。
子どもの名前を聞きそびれたなとか、
ハリーはきっと大丈夫とか、そんなことを考える。
太陽かんかんの中、
車は転送院を目指す。