船に揺られる。
車庫の明かりはぼんやりと。
車がこんな風に揺られたことがないから、
車もびっくりするかもしれないと、ネジは思う。
あるいは。
この車はいつから乗っているんだろう。
ネジの記憶の始まりあたりに、
港町リズがある。
サイカが物理召喚で、チンピラをやっつけた町。
ネジの記憶は大体そこから始まっている。
この車はどこで調達したんだろう。
すごくレトロという車だよ。
どうして歯車じゃないんだろう。
そう長くない船旅が、
そろそろ終わるという合図が聞こえる。
かんかんかん!
鐘の音。
まもなく船がゆっくりになる気配。
そして、少しの振動があり、港に到着したと感じた。
ネジは車のキーを回した。
エンジンをかけ、ライトをつける。
あとは誘導に従って降りる。
やっぱり鉄板らしいものの上を車は通り、
無事に次の島へとやってきたらしい。
あたりはもう夜だ。
でも、港からそう遠くないところに明かりがたくさん見える。
「ここが次の町だ」
「トーイ」
「そうだ」
ネジは車をゆっくり走らせる。
まずは港から市街地に向けて。
明かりがそこかしこにあって、明るい。
夜もずいぶんふけたと思ったが、
まだいろんな店が営業しているのか、
それとも明るくする風習なのか。
ネジにはわからなかった。
潮のにおいがする。
ざざざと海のなる音がする。
ああ、海の町だな、などとネジは思った。
サイカが窓を開けた。
町の人に何か聞くのかもしれない。
ネジはゆっくりの速度をさらに下げた。
「すまないが」
サイカが声をかける。
図体の大きなおじさんだ。
「この辺りに車の修理工場はあるか?」
「ああ、それなら…」
おじさんは道を説明する。
サイカはそれを聞き、礼を言った。
「どっち?」
ネジがたずねる。
サイカが指示する。
車は走る。
やがて、小さな修理工場を見つけた。
邪魔にならないところに駐車。
エンジンを止めてキーを抜く。
車を降りて、交渉相手を探す。
「すみませーん」
ネジがやや声を張り上げる。
「あいよー」
女性の声がする。
ばたばたと、つなぎの女性がやってくる。
確かに胸は大きく膨らんでいるから女性なのだろうが、
つなぎの上からでも筋肉がついていることがうかがえる。
「この車の整備を頼みたいんだが」
サイカが交渉に出る。
「いや、これは古いわね」
「いくつか前の町で整備してもらったが」
「旅人さんなんだ」
「グラスサードをこれで抜けていったから、不安が残る」
「ああ、砂ね」
女性はある程度納得したらしい。
「あたしにまかせなさい」
女性は胸を叩いた。
二日三日かかると、女性は言う。
それでかまわないと答え、交渉成立。
車を預けて、
ネジとサイカは町に出た。
宿を取ることと、食事を取ること。
目的はそんなところだ。
「酒を飲むか?」
「うーん、買って持ってく」
「ビーがまだあったな」
「あれはあれで別の機会に飲む」
サイカは無表情に、
ネジの頭をぽんぽんと叩く。
ほめられているのだろうか。
まぁ、サイカは悪いやつじゃない。
ほめられて、いやだとか言うのではない。
多分、ネジが自分の酒の限界をわかりつつあることを、
サイカはちょっとだけほめてくれた。
「無理するな」
「しないようにがんばる」
適当に入った食堂で、
魚介類の晩御飯を食べる。
新鮮な生の魚や、
煮込んだ魚とお米のお粥のようなもの。
さすがに海の近くだけあり、
魚には事欠かないと見えた。
「おいしい」
ネジは素直においしいと感じたままに言う。
厨房からひょっこり出てきたおじさんが、
うれしそうに微笑んでいた。
満腹になって、
お金を払って食堂を後にする。
「宿とろうか」
「ついでだ、ひとつ買っていこう」
サイカが示す先に、
酒屋の文字。
ネジはちょっとうれしくなった。