ネジとサイカは町を歩く。
サイカの足取りには自信が戻ってきている。
「それで、服はどうする」
「同じようなのがないかな」
「あくまでイメージは変えないか」
「変えちゃいけないような気がするんだ」
サイカがうなずいた。
「記憶がなくなっても、そこは変わらないか」
「え?」
「こっちの話だ、行くぞ」
サイカはつかつか歩いていく。
ネジはあわててあとを追った。
「どこいくの?」
ネジはたずねる。
白い壁の町並み。
どうやら統一されているらしい。
そのトーイの町の通りの、
ずいぶん奥の路地までやってきた。
「この辺りに服屋があるらしい」
「どこで聞いたの?」
「朝飯を食べているときに、近くの話を聞いていた」
「へぇ…」
ネジは感心する。
サイカの情報網はすごいのだ。
「あれか」
サイカが足を止める。
看板に、服飾店仮面屋と書いてある。
中を覗くと、仮面をかぶった青年が一人でいる。
ドアを開けて中に入る。
「いらっしゃい」
仮面の青年が挨拶する。
「あんたらの服、できてるよ」
ネジはびっくりする。
当然だ、連絡なんてしていない。
仮面の男はふふっと笑った。
「あんたらのことは、よく知ってるよ」
「どうして」
ネジは思わずたずねる。
「服という物はね、なりきるための道具さ」
仮面の青年は語る。
服というものは、なりきるための道具。
聖職者に、執事に、
なりきるための服は、
散らばる仮面屋が提供したものだと。
本質を伝えるものでありながら隠すもの。
服という物はそういうものだと。
「服は中身がなければ、うつろなのさ」
「そういうものですか」
「そういうものさ、着てみるかい?」
「サイズ大丈夫ですか?」
「仮面屋をなめるなよ」
仮面の青年は、ふふっと笑った。
仮面屋の用意した服をネジとサイカは着る。
黒いスーツだ。
サイズはぴったりだし、着心地もいい。
「今までの服もクリーニングしておくよ」
「ありがとうございます」
「出来上がったら宿に送っておくよ」
「宿もわかるんですか?」
「仮面屋をなめるなよ。ぜんぶわかるのさ」
怪しいけど、すごいのは確かなんだろうなと思う。
「それじゃ、おねがいします」
「まかせとけ」
仮面屋に服を頼み、ネジとサイカは通りに出た。
仮面屋は路地のどん詰まりにある。
そこから空を見上げると、
どうにも狭い空しか見えない。
狭い空、そこを何かが横切っていった。
そして、轟音。
「なんだ?」
「翼機だな。大きいぞ」
「一瞬しか見えなかった」
「とりあえず通りに出るか」
サイカが歩く。
ネジもついていく。
通りはすごい騒ぎになっていた。
「本物のグリフォンだよ」
「すごい!」
「大きいな」
などと町の人々が騒いでいる。
通りまで出ると空が広く見える。
トーイの町の海の音を無視して、
大型翼機のグリフォンがまた轟音を上げて、
町の上を旋回する。
号外丸の比じゃないほど大きい。
「ハリーが狙ってるのはあれかな」
「だろうな」
ネジとサイカは空を眺める。
青い空に大きな翼機が映える。
町の人々の声が聞こえる。
「トランプが警護に当たってくれるそうだよ」
「ハリーは夜中に盗み出すって。号外で言ってたよ」
「一人で盗めるのかねぇ」
「盗んだらすごいことじゃないか」
「でも、トランプを相手に盗めるものか」
トーイの町は、お祭りか何かのようにうきうきしている。
噂が本当なら、ハリーは夜中にあの大きなのを盗むという。
ネジのところから去るとき、
準備があるといっていたから、
何か仕掛けをつけているのかもしれない。
気になる。
お祭りにも便乗したい。
「夜中に少し出てみるか」
サイカが提案する。
「いいの?」
「ただし、酒は飲むな」
「うん、わかった」
ネジは夜中が楽しみになった。