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05.その③ TOP4を味方につけよう~奇才編①

 それにしても、悪役令嬢の噂とは恐ろしいわね。カフェテリアでのロイズとのくだり。しっかりクラスメイトに見られていたみたいで、悪役令嬢が婚約者を振っただの、その暴君振りを発揮しただの、良からぬ噂が一気に広まったみたいで。翌朝、クラスメイトがワタクシを見る目が変わっていましたわ。


「ヴィオラ様、ゆうべはお楽しみでしたね!」


 ん? ルビィ? 何か噂が捻じ曲がっていない?


「ヴィオラ様、その美貌でペリドットの貴公子を弄んだんですよね?」


 いやいや、サファイア? 弄んだって何か意味が違ってる気がするし。


「嗚呼、ヴィオラ様、うちの事もその御肢体オカラダで弄んでくださいまし♡」


 いや、マリンこの娘、眼がハートになってるから。


「ヴィオラ様、素敵」


 寡黙なこの子はマイペース……いや、なんかよだれ垂れてるし。


 どうやらワタクシの学園での行動全てが、噂として広まっていくみたい。むしろ、取り巻きの子達は一緒に居ない時もまるでボディーガードのように遠目でワタクシを見守っている訳で、きっと色々とワタクシが居ない間に居ない時の妄想を巡らせるんだろう。とりあえずワタクシの良からぬ噂を立てないよう、軌道修正しておいた。


「嗚呼、それから今後、ヒイロを無視するのは禁止ね」


「え、ヴィオラ様! 何かあったのですか?」

「もしかしてヒイロから仕返しをされたのでは!?」

「それならば余計、自身の立場を彼女に分からせなければなりませんわ」

「ヴィオラ様、守る」


「お待ちなさい!」


 ヒイロに仕返しをされたと勘違いする取り巻き四人衆を一蹴し、今までのワタクシが間違っていたのだと彼女達へ伝える。彼女に足りないところがあるのならば、むしろ彼女を一国の将来を担う素敵な淑女として育てる事が、公爵令嬢としての務めであると説得すると、その演説に感動したのか、取り巻きほうせき四人衆の眼の色が変わった。


「ヴィ、ヴィオラ様! なんて寛大な御方」

「それならば、兄がプロデュースしている宝飾店を紹介しますわ」

「うち自慢のメイク術で彼女をプロデュースしますわ」

「ヴィオラ様とヒイロ、守る」


 この子達がワタクシに従順な子達でよかったわ。そもそも原作では学園生活の後半、ヴィオラだけでなく、この子達も暴走し始めていたのだ。ヴィオラの悪役令嬢振りが彼女達にも伝染し、好き放題振る舞っていた。そこを正さなければ結局同じ道を辿ってしまうのだ。


 どうやらワタクシの意思は伝わったようで、なんとその足で取り巻き四人衆が和解に向かってくれた。始め、驚きの表情を隠せないヒイロだったが、彼女との溝は完全に修復出来ない深さまで至ってはいなかったみたい。笑顔で会話する彼女を遠目で見るワタクシも少し表情が緩む。


「へぇ~、悪役令嬢が今日は穏やかだね?」

「あら、その声は、ペリドットの奇才。アクアリウム公爵家嫡男、サザンドール様ではないですか?」

「なんだか今日は他人行儀じゃないか。ヴィオラと俺の仲だろう。いつものようにサザンと呼びなよ?」


 アクアリウム家はペリドット王国四大貴族のひとつ。そんなアクアリウム家の嫡男であり、王立ペリドッド学園TOP4が一人、サザンドール・アクアリウム。女性のように美しく波打つ髪は海色マリンブルー。睫毛の長い淡翠ペリドット色の双眸ひとみ。学園の成績はいつもヴィオラが一位で彼が二位。武芸に優れるロイズに対してサザンドールは知的で芸術肌。学園での成績を常に争うヴィオラの事を気に入っており、ロイズの婚約者と分かっていながらヴィオラを口説く事もしばしば。恐らく噂でロイズと何かあったと知ったサザンドールがヴィオラへ迫って来たのだろう。


「ふふふ、悪役令嬢と呼ばれるワタクシに近づくなんて、相変わらず物好きね、サザン」

「ヴィオラ。ロイズに飽きたらいつでも俺の所へ来ていいんだよ?」


 ワタクシの耳元で甘い言葉を囁くサザン。吐息が甘い。ワタクシじゃなくて、前世のわたしだったなら、その甘い吐息に蕩けてしまっていたに違いない。大丈夫よ、今はワタクシ、ヴィオラ・クラシエルだもの。そんなロマンス詐欺のような口説き文句には簡単に乗りませんのよ?


 ただし、TOP4であるサザンドールは学園の行く末を担う人物。彼を敵に回す事は得策ではないため、ここは彼の役得を最大限利用させてもらいましょう。


「そう。じゃあ、ひとつ、頼まれてくれないかしら?」

「お、君から誘いとは珍しいね。一夜限りのロマンス体験なら大歓迎だよ?」

「コホン、そうではありませんわ。あなたのブティックを今度お借りしたいのよ」


 サザンドールは若くして芸術の才を開花させており、彼自身がデザインを手掛けたドレスをプロデュースしたブティックを王都に開いているのだ。彼の華やかで奇抜なドレスは王国の令嬢達にも人気のため、現在彼のブティックは完全予約制となっており、本来半年先まで予約が取れないと言われているのだ。


 夜悪戯ヨアソビの誘いではないと知ったサザンがあからさまに全力で振っていた尻尾をしゅんとさせる。これには思わず可愛いと思ってしまったわね。でも、ヴィオラからの頼みと聞いて、彼が断わる筈もなく、すぐにその淡翠ペリドット色の双眸ひとみを輝かせ始めた。


「なんだ、そんな事ならお安い御用さ。今年の謝恩祭へ向けて、今から君に似合う特別なドレスを仕立ててア・ゲ・ル」

「いや、ワタクシのドレスではなくて、あの子のドレスをお願いしたくて」


 ワタクシの視線の先には四人衆とたわむれるヒイロの姿。思ってもみない令嬢の登場にサザンの表情が変わる。


「あとで詳しく話を聞かせてくれる?」

「勿論ですわ」


 この日のカフェテリアでの食事は、ロイズでもヒイロでも取り巻きほうせき四人衆でもなく、サザンドールが相手になりましたわ。


 ワタクシはヒイロ伯爵令嬢を素敵なお嬢様としてプロデュースしたい旨を彼に伝える。いつもとは違う悪役令嬢からの提案に興味津々のサザンドール。それにヒイロ伯爵令嬢が可愛らしく美しい事は同じクラスであるサザンドールも周知の事実。そういう事ならと目を輝かせて協力してくれる事となった。


 そうそう、ワタクシとサザンが楽しそうに話す姿を物陰から見ている者が居たみたいだけど、その人物が誰か知るのはもう少し先になりそうですわ。



~悪役令嬢になったらやりたい13のこと~


その③ TOP4を味方につけよう 



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