昔から、大切なものを作るのが苦手だった。
大切なものへの執着で、子どもながらに"異常"だと感じていたからだ。一度執着してしまえば、抑えられなくなる。失うのが壊れるのが奪われるのが心配で、誰の目にも触れさせないように隠す。
それは、自分でも怖くなるほどの強い想い。
だから、大切なものをつくるのを止めた。基本的に無関心でいること。なにに対しても興味を抱かないこと。少しでもそんな感情が生まれたら、見ないようにして、近づかないようにして、触らないようにした。
「なあ
「そうそう。たまにはいいじゃん。ってか、なんで女子とばっかり遊んで、俺たちとは全然遊んでくれないんだ?」
「本当は女子だからなんじゃねぇの?」
「たしかに~。弱そうだし? すぐ泣くし?」
やっぱりあいつらか。
放課後。授業が終わった直後に、
幼稚園の時から少しも学習しない、馬鹿な奴ら。
人気の少ない体育館裏で、四人で寄ってたかってひとりを囲むとか、最悪だろ。
(小三になっても変わらない····いつまで同じことしてんだよ)
俺がいないところで、ああいう風に
早く行って
「悪いが、ハクは私と帰る約束をしている。勝手に連れて行かれては困るんだけど?」
もうひとりの幼馴染である
「なんだよ、
「連れて行くとか、俺たちが悪いみたいじゃん? ちょっと遊んでただけだよな、
言って、ひとりが
「やめろ。ハク、行こう?」
「雅ちゃん····ごめんね、」
出遅れた俺は、ふたりが四人を無視してその場から去って行くのを見守った後、体育館裏へと向かう。もう二度と同じことはさせない。俺の大切なもの。お前らなんかに触らせない。
「なんだよ、感じわりぃな。今度はあいつ、やっちゃうか?」
「へぇ。それはいいな。俺も混ぜてくれよ?」
「げっ⁉
四人が四人ともお化けでも見るような怯えた眼で俺を見て、さっと顔色を変えた。
「はは。冗談に決まってんじゃん」
『なんだよ、感じわりぃな。今度はあいつ、やっちゃうか?』
「お前、まさか····っ」
俺はスマホ片手に小さく笑みを浮かべる。嘲笑にも似たそれは、奴らを黙らせるにはじゅうぶんだったろう。うちの学校はスマホの持ち込みが許可されている。授業中にいじったりしないよう放課後まで先生に預けるのだが、すでに返してもらっているので今は手の中にあった。
みんながみんな持っているわけではないが、うちの親は過保護なので常にGPSで見守られている。おかげで役に立った。
「俺、前に言ったよね? お前らはひとの言葉を理解できないお馬鹿さんなのかな? それとも本気で俺を怒らせたいの?」
「····それ、どうするつもりだ?」
「そんなの、わかってるくせに」
俺は弁解も聞かずにクラス共有のSNSに送信した。先生も親も目にする連絡用のSNS。まあこの短い動画くらいで、実際イジメをしていたかどうかの証拠にはならないだろうけど、奴らに対しての罰にはなっただろう。
「お前!」
「マズイよ、どうするっ⁉」
「俺なんかにかまってないで、うまい言い訳でも考えてれば?」
小三の子どもが今の状況で良い言い訳を思い付くかと言われれば、無理だろう。容赦ない俺のやり方に、四人ともさっき以上に真っ青な顔をしていた。顔を見合わせて「おぼえてろよ!」と捨て台詞を吐き、あいつらはこの場から逃げ去った。
(まあ、ここで逃げたところで意味ないけどね)
もう爆弾は投下されているのだから。
四人は後日、担任に呼び出され、あの動画についてあれこれ聞かれたようだ。担任は担任で事を大きくはしなくなかったのだろう。厳重注意だけでそれ以上のお咎めはなかった。しかしクラス中が知ることとなり、あいつらが大人しくなったのも事実。
数日後。
「お前がやったんだろう?」
放課後の教室で、雅が唐突に問いかけてきた。
「だったらなんだよ。お前が先に出て行ったせいで、あいつらに無駄に目を付けられたくせに。今は同じクラスだからいいけど、先のことは知らないからな、」
「大きなお世話だ」
可愛くない。
雅はふんと横を向く。
「お前、ハクが好きなのか?」
「····なんでそんなこと訊くんだよ」
俺は内心動揺しまくっていたが、それを隠すように目を逸らした。
「心配だからに決まってるだろう。
俺が怖い、ね。
まあ、わからなくないけど。
「もしハクを泣かせるようなことをしたら、私は絶対に許さないからな」
「なんで俺がそんなことするんだよ」
俺が
どうやったらそんな発想が出てくるんだ?
雅はそれだけ言うとさっさと教室から出て行った。ひとり残された俺は、首を傾げたまま、その言葉の意味を知ろうともしなかった。