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第6話 「飼い猫を探せ」④




 「いったい誰が……!」

 ズミは飲み終わって手にしていた、コーラのペットボトルを握りつぶした。

「おい。落ち着け」

 さっきの上品なお嬢様風の姿から、ジャージに着替えたズミは怒っていた。顔の化粧は落としてないので行動とギャップがある。


 「早く、猫を見つけるぞ」

俺はネクタイを外してソファーの背へ置いた。上着も脱いでズミに渡した。

 「悪いが上着をハンガーに掛けてくれ。あと、捜索後はいつものように頼む」

俺は多分眉間にしわを寄せてたと思う。猫をと思われる人物からの脅し。……ムカついた。

 「こっちも色々、調べとくから。捜索後は任せて!」

 つぶれたペットボトルをさらにつぶして見せた。頼もしい。俺はいつものように部屋へこもる。カチャカチャと激しくキーボードを打つ音が、部屋まで聞こえた。


 ドサッ! と乱暴にソファーへ深く座り、横になった。テーブルに猫の写真と依頼猫のお気に入りのブランケットの切れ端をポイっと投げて置いた。


  【検索サーチ

 体中の力を抜いて、依頼人の家へ。すると、まるでゲーム画面のように景色が移動する。

 先ほど招待された家の中へ、誰にも知られずにまた入れた。フワフワ浮いている透明な意識体みたいなもの。でも律儀に玄関からお邪魔する。

 いくら意識だけとはいえ、個人のプライベートは侵さないようにしている。


 玄関からリビングへ。……奥様はいないようだ。俺達が帰ってからだいぶ経つから、テーブルの上はきれいに片づけられていた。

 さて……。俺は他の飼い猫たちに、いなくなった依頼猫のことを聞きたいと思う。なぜか、この能力を使ったときは動物と会話テレパシーみたいなことが出来る。使わない手はない。

 猫部屋へ急ぐ。たしかこっちだった。俺はリビングから奥様に案内された道筋を辿って広い猫部屋へ着いた。セキュリティがしっかりしていても、意識体なら壁も通り抜けられる。


 「シャアアアアアア!」

「ニャアアアアアア――!」

 二匹の猫は、意識体の俺にも敏感に気配を察知して威嚇してきた。

『おおっと。威嚇しないでくれ。仲間の猫、ルルちゃんを見つけたいんだ』

俺は二匹の猫へ頭の中へ話しかけた。

 「ニャ!?」

「ニャ、ニャン――?」


 猫たちは不思議がっていたが、お互いの顔を見合わせて威嚇をやめた。ジッと俺の顔を見て、先ほど飼い主とこの部屋に来た者お客さんと気が付いてくれたようだ。

『教えてくれ。ルルちゃんはどこにいる? 君たちの主人が悲しんでる。見つけてあげたい』

 俺はたぶん、ルルちゃんは家の中にとみた。猫たちはきっとルルちゃんが連れて行かれたのを見ているだろう。なにか手がかりを教えてもらえたらと思って、ふざけずに真剣に聞いた。


 「にゃ……」

一匹の猫が鳴いて歩き出した。目で追っていくと入り口から左の方の壁に行き、交互にカリカリと壁を手でひっかいた。

 「ニャ――」

 もう一匹が「あっちだよ」と言うように鳴いた。

『左側の方の部屋に、いる?』

俺がまた頭の中へ話しかけた。すると二匹の猫は同時に「「ニャオン!」」と鳴いた。

『ありがとう! 今は無理だけど、必ず見つけてやるからな』

 「「にゃ――!」」

 ニカッ! と笑って猫部屋を離れた。


 セキュリティ感知をされずに猫部屋を出た。猫たちが教えてくれた、ルルちゃんがいる部屋は左の方にある。俺はス……と音もさせず移動した。


 隣の部屋は、お風呂場やトイレの部屋だった。ここにはいない。壁をすり抜けて、さらに隣の部屋へ。


 暗証番号を押して鍵が開く、厳重なカギがついているドアがあった。なにか重要なものが置いてある部屋だろうか? でも厳重なカギがついてても俺には関係ない。

 慎重にそのドアをすり抜けて、部屋へ入る。


 モノトーン系のインテリアの広い部屋だ。男性の部屋なのだろうか? たくさんのモニター画面とパソコンが並んだ部屋……。殺風景な部屋はあまり生活感がなかった。

 その部屋の奥に次の部屋へ続く、ドアがあった。寝室だろうか?

俺は移動して、その奥のドアをすり抜けた。


 ん? 前の部屋はフローリングだったのに、ここは絨毯が敷いてある。そして空気清浄機に、キャットタワーに猫用おもちゃ……。

 猫ベッドに丸まって寝ているのは……『ルルちゃん?』。俺が名前を呼ぶと、まぶたを開けた。

 「にゃあ……」

 写真の猫と同じ模様。とくにケガをしている様子はなさそうだ。ご飯を入れるお皿もあるので、ご飯ももらえているようだ。

『ご主人に会いたいだろ? 今は無理だけど、助けてあげるよ。待っていてくれ』

 俺が頭の中へ話かけるとルルちゃんは、体を起こした。

「にゃにゃ!」

猫ベッドからピョン! と降り、俺の側へ寄ってきて猫の手を伸ばした。だけど今の俺は実体ではないので、触れることなくルルちゃんの手は空振りした。


『今は助けてやることができない。でもおとなしく待っていてくれ。必ず助けるから』

ルルちゃんを撫でようとしたが、俺の手もスカッと通り抜けた。

『今度、会ったとき。撫でさせてくれ』

 「にゃん!」

 そう言い残してルルちゃんのいた部屋から出た。


殺風景な部屋に戻って来た。一応ベッドがあるから使っているのだろう。プライバシー侵害だがチラッとつけっぱなしのモニター画面を見てみる。

 これは……。

 一台のモニターには分割された画面が表示されており、この家の防犯カメラの映像が映されていた。それが数台。かなりの防犯カメラになるだろう。

 花柄の壁紙の女性らしい部屋も映し出されており、防犯カメラというより監視カメラだ。――この部屋の持ち主は。


 俺はすぐに自分の体へ戻ることにした。






















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