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№3 思い出の万年筆

第8話 思い出の万年筆 1


 俺とズミは先日の依頼が無事……? に終わったので、外へ食事に来ていた。

「高級焼肉、美味しかったね!」

 ズミが焼き肉を食べたいと言ったので、どうせならと高級焼き肉店で満足するまでご馳走した。

 「ああ、そうだな。美味しかった」

 最近は量より質が良いほうに体が、求めてるような気がする。


 「これからどうする?」

お腹も満たされたし、ズミに付き合ってやってもいいかなと聞いてみた。

 「ん――。食後の運動で、その辺を見たいかな?」

 ここら辺はショッピングにもってこいのデパートや、ショップがたくさんある。食後の運動には良さそうだ。

 「まあ、買いすぎないならいいぞ」

 ズミにも報酬を分けたので、懐具合が良い感じだ。

「へへ」


 何件かショップを見て回り、ズミは小物など数点買っていた。そろそろ見て回るのも疲れてきてカフェか喫茶店で休もうと、二人で適当な所を探していた。

 「あれ? 稲積いねずみ君じゃない?」

入りやすそうなカフェを見つけて、席は空いているか見ていた。その時、ズミが女性に声をかけられた。


 振り向くとズミと同じくらいの年齢の女性。伊達メガネをかけて髪の長い女性がいた。

 「満里奈まりな?」

 今日のズミの服装は、パンツスタイルで髪の毛は一つに束ねて中性的な格好をしていた。なので知り合いに見つけられたのかと思った。


 「そう、満里奈よ! 大学卒業以来だから、久しぶりね。元気だった?」

活発そうな女性は、満里奈という名前だった。あれ? どこかで見たことがあるような?


 「たしか、芸能活動をしてるよね?」

ズミが周りを気にし始めた。

 「うん。少しずつテレビや雑誌とかにも、歌の仕事が増えてきて……」

 どうりでみたことがあるはずだ。この間、期待の新人歌手として紹介されていた。

 「ここ、半個室があるみたいだから入って話をしようか」

 ズミが俺に目くばせして女性に言った。周りが、彼女に気が付き始めたようだった。テレビに出ていると知名度が上がり、顔を覚えられる。仕事的にはいいが、プライベートには気を付けなければならないだろう。


 「あ……。そうね、ごめんなさい」

周りがざわつき始めたので、彼女も気が付いたようだ。動画など撮られる前に場所を移動した方がいいだろう。俺達は目の前のカフェへ一緒に入った。


「今日、一人? マネージャーさんは一緒にいないの?」

ズミはお店の奥の、目立たない席を選んだ。なかなか良い場所を選んだと思う。彼女は俺達の向かいの席に座って、伊達メガネを外した。

 「今日はオフだから……。そうね、軽率だったわ」

 これから売り出そうとしているシンガーソングライターさん。今度新しく始めるドラマの主題歌が決まっていたはずだ。

 「マネージャーさんに来てもらうと良いよ。連絡取れる?」


 カフェ前の感じでは、もうこのシンガーソングライターさんに気が付いた人が居場所をSNSで教えているかもしれない。

 「ええ」

 彼女はズミの言うことを素直に聞いた。しばらくすれば彼女を迎えに来るだろう。

 「連絡したわ。迎えに来てくれるって」

 彼女は携帯をテーブルの上へ置いた。人気商売は大変だな。


 「ごめんなさい。迷惑をかけちゃったわね」

 俺とズミはコーヒーを。彼女は紅茶を注文した。伊達メガネを外した彼女は薄化粧できれいな顔立ちをしていた。薄化粧でも美人だ。

 「かまわないけど……。買い物に来てたの?」

 大学の友人なのか、ズミは彼女と親しそうに話をしていた。

 「ええ。……ところで稲積君は今、なにをしているの?」

 どうやら彼女は隣に座っている俺が気になるらしい。自己紹介がまだだったな。


 「今、こちらの方の所でお世話になっているの。この方は……」

 ズミが俺を紹介しようとしたので名刺をテーブルの上へ置いた。

 「狗鷲探偵事務所の狗鷲 保いぬわし たもつです。主に失せ物……失くしたものなどを探す、探偵をやっています。何かありましたらよろしくお願いします」

 とにかく顔を広げて営業! なので名刺を渡した。名刺を受け取った彼女は、食い入るように見ていた。


 「なにか、気がかりな事でも?」

俺が尋ねると「い、いいえ」と返事があった。

 「もし、何かありましたら稲積の方に、連絡してください」

 初対面の俺じゃあ、警戒するだろう。それになにかあるような気がした。

「あ、じゃあ。連絡先を交換しようか」

 ズミは誰でも積極的に仲良くなるし、連絡をとりあう、陽キャだ。俺的には助かっている。


 ちょうどズミと彼女が連絡先を交換し終えたとき、マネージャーさんがやって来た。

 「マリナ。大丈夫だったか?」

 マネージャーらしき人は真っ先に彼女の心配をした。良い人そうだ。

 「ごめんなさい。ちょうど、大学の時の友人に助けてもらったの」

 怒られずに済んでよかった。

 「お店の人に話をして、知り合いの方は裏から出てもらうことにした」

 賢明な判断だ。俺はマネージャーさんに挨拶をして名刺を渡すことにした。

 「隣にいる稲積の雇い主です。良かったら名刺をどうぞ」


 「これは、親切にありがとう御座います」

 受け取った名刺を見て、探偵の文字を見つけてギョッ! と驚いたが【失せ物探偵】失くしもの専門、と知ってホッとしたらしい。

 「では、失礼します」

「ごめんね! また!」

 満里奈……。シンガーソングライターのマリナは、マネージャーさんに連れられて帰った。

 後から聞いた話だと、入り口前ではファンが数人出待ちをしていたそうだ。


 数日後。そのマリナからズミの元へ、捜索依頼の連絡が入った。








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