俺とズミは先日の依頼が無事……? に終わったので、外へ食事に来ていた。
「高級焼肉、美味しかったね!」
ズミが焼き肉を食べたいと言ったので、どうせならと高級焼き肉店で満足するまでご馳走した。
「ああ、そうだな。美味しかった」
最近は量より質が良いほうに体が、求めてるような気がする。
「これからどうする?」
お腹も満たされたし、ズミに付き合ってやってもいいかなと聞いてみた。
「ん――。食後の運動で、その辺を見たいかな?」
ここら辺はショッピングにもってこいのデパートや、ショップがたくさんある。食後の運動には良さそうだ。
「まあ、買いすぎないならいいぞ」
ズミにも報酬を分けたので、懐具合が良い感じだ。
「へへ」
何件かショップを見て回り、ズミは小物など数点買っていた。そろそろ見て回るのも疲れてきてカフェか喫茶店で休もうと、二人で適当な所を探していた。
「あれ?
入りやすそうなカフェを見つけて、席は空いているか見ていた。その時、ズミが女性に声をかけられた。
振り向くとズミと同じくらいの年齢の女性。伊達メガネをかけて髪の長い女性がいた。
「
今日のズミの服装は、パンツスタイルで髪の毛は一つに束ねて中性的な格好をしていた。なので知り合いに見つけられたのかと思った。
「そう、満里奈よ! 大学卒業以来だから、久しぶりね。元気だった?」
活発そうな女性は、満里奈という名前だった。あれ? どこかで見たことがあるような?
「たしか、芸能活動をしてるよね?」
ズミが周りを気にし始めた。
「うん。少しずつテレビや雑誌とかにも、歌の仕事が増えてきて……」
どうりでみたことがあるはずだ。この間、期待の新人歌手として紹介されていた。
「ここ、半個室があるみたいだから入って話をしようか」
ズミが俺に目くばせして女性に言った。周りが、彼女に気が付き始めたようだった。テレビに出ていると知名度が上がり、顔を覚えられる。仕事的にはいいが、プライベートには気を付けなければならないだろう。
「あ……。そうね、ごめんなさい」
周りがざわつき始めたので、彼女も気が付いたようだ。動画など撮られる前に場所を移動した方がいいだろう。俺達は目の前のカフェへ一緒に入った。
「今日、一人? マネージャーさんは一緒にいないの?」
ズミはお店の奥の、目立たない席を選んだ。なかなか良い場所を選んだと思う。彼女は俺達の向かいの席に座って、伊達メガネを外した。
「今日はオフだから……。そうね、軽率だったわ」
これから売り出そうとしているシンガーソングライターさん。今度新しく始めるドラマの主題歌が決まっていたはずだ。
「マネージャーさんに来てもらうと良いよ。連絡取れる?」
カフェ前の感じでは、もうこのシンガーソングライターさんに気が付いた人が居場所をSNSで教えているかもしれない。
「ええ」
彼女はズミの言うことを素直に聞いた。しばらくすれば彼女を迎えに来るだろう。
「連絡したわ。迎えに来てくれるって」
彼女は携帯をテーブルの上へ置いた。人気商売は大変だな。
「ごめんなさい。迷惑をかけちゃったわね」
俺とズミはコーヒーを。彼女は紅茶を注文した。伊達メガネを外した彼女は薄化粧できれいな顔立ちをしていた。薄化粧でも美人だ。
「かまわないけど……。買い物に来てたの?」
大学の友人なのか、ズミは彼女と親しそうに話をしていた。
「ええ。……ところで稲積君は今、なにをしているの?」
どうやら彼女は隣に座っている俺が気になるらしい。自己紹介がまだだったな。
「今、こちらの方の所でお世話になっているの。この方は……」
ズミが俺を紹介しようとしたので名刺をテーブルの上へ置いた。
「狗鷲探偵事務所の
とにかく顔を広げて営業! なので名刺を渡した。名刺を受け取った彼女は、食い入るように見ていた。
「なにか、気がかりな事でも?」
俺が尋ねると「い、いいえ」と返事があった。
「もし、何かありましたら稲積の方に、連絡してください」
初対面の俺じゃあ、警戒するだろう。それになにかあるような気がした。
「あ、じゃあ。連絡先を交換しようか」
ズミは誰でも積極的に仲良くなるし、連絡をとりあう、陽キャだ。俺的には助かっている。
ちょうどズミと彼女が連絡先を交換し終えたとき、マネージャーさんがやって来た。
「マリナ。大丈夫だったか?」
マネージャーらしき人は真っ先に彼女の心配をした。良い人そうだ。
「ごめんなさい。ちょうど、大学の時の友人に助けてもらったの」
怒られずに済んでよかった。
「お店の人に話をして、知り合いの方は裏から出てもらうことにした」
賢明な判断だ。俺はマネージャーさんに挨拶をして名刺を渡すことにした。
「隣にいる稲積の雇い主です。良かったら名刺をどうぞ」
「これは、親切にありがとう御座います」
受け取った名刺を見て、探偵の文字を見つけてギョッ! と驚いたが【失せ物探偵】失くしもの専門、と知ってホッとしたらしい。
「では、失礼します」
「ごめんね! また!」
満里奈……。シンガーソングライターのマリナは、マネージャーさんに連れられて帰った。
後から聞いた話だと、入り口前ではファンが数人出待ちをしていたそうだ。
数日後。そのマリナからズミの元へ、捜索依頼の連絡が入った。