「狗鷲探偵事務所さんは、
長い髪を後ろでまとめ髪にし、長袖Tシャツにジーンズとラフな服で事務所へやって来た女性。
先日。ズミと食事と買い物を楽しんでいるとき、久しぶりに会ったというズミの大学の時の友人。シンガーソングライターのマリナだった。
ズミに連絡が入って、今。目の前に座っている。
「そうです。地道な調査と、
若い子に怖がらせないよう俺は、にっこりと営業用の笑顔を作って見せた。ズミが部屋の隅で笑いをこらえていた。
「紅茶でよかったかな? どうぞ」
ズミがマリナに紅茶を淹れてきて、テーブルへ置いた。俺にも同じものを持って来てくれた。
「ありがとう。いただくわ」
マリナはそう言って紅茶を飲んだ。忙しいのか目の下にクマが出来ていた。
「依頼、したい物があります」
黒のトートバッグからケータイを取り出して、俺に画面を見せた。ケータイカバーはキラキラと
画面を見ると、箱から出したばかりと思われる万年筆が写っていた。横にはリボン。なにかお祝い時に贈られた、万年筆だろうか?
ズミは俺達の会話を聞きながら、パソコンに会話内容を記録している。
「これ……」
マリナは画面を見たまま黙り込んでしまった。ケータイを持って、何かを思い出しているようだった。
「先月亡くなった父から、二十歳の記念に贈られた万年筆……なのです」
俺はマリナの話を聞いて、まだ父親も若いだろうにと思った。
「それは……、お悔やみ申し上げます」
「……」
ズミはキーを打つ手がとまっていた。マリナは気丈に依頼の続きを話した。
「作詞や作曲も、この万年筆で書いてました。便利な道具があっても、浮かんできたアイデアをまず紙に書いてから始めてたので……。失くした今、うまく曲を作れないし歌え無くて……」
マリナは画面を見ながら、この万年筆を大事にしていたことを語ってくれた。父親が亡くなってからまだ日が経ってない。精神的にもつらい時期だろう。そんな中、父親が二十歳の記念に贈ってくれた大事なものを失くしたなんて、よけい辛いに違いない。
「絶対に探してあげるよ! ううっ……!」
ズミが俺達の所へ駆け寄って、話に割り込んできた。驚いて見るとズミは号泣していた。
「ごめん……満里奈。私、知らなくて……」
ズミは今日、青いシャツにスラックスという男の子に見える服装だった。人によって服装と髪型、メイクを変えている。
「あ、ああ。いいのよ。父の意向で誰にも知らせなかったから。私の代わりに泣いてくれて、ありがとう」
マリナは弱弱しく微笑んだ。……どうにか探してあげたい。ズミは自分の机がある席へ戻っていった。
「……移動個所など、教えてもらえないでしょうか?」
俺はなくなったと気が付いた日の辺り移動した場所や、使った記憶そのほかのことを細かく聞いた。マリナは覚えている記憶をたどりながら、教えてくれた。
一人暮らしをしているので、その部屋は隅々まで探したという。そのほか仕事場。二、三日向かった場所と名前を聞いた。
あと父親が入院していた病院。たびたびお見舞いに行ってたそうだが、もう私物は実家へ戻っているそうだ。実家も母親に調べてもらって、そこにもなかったそうだ。
正直、難しいかもしれない。
「なにか特徴とか、ありますか?」
なにか人と違った特徴などあれば、
「依頼日数以上に日数がかかるかもしれませんが、いいですか? そのかわり見つからなかった場合、お客様が依頼を途中で断っても構いません。料金は、依頼にかかった料金や手数料を引いてお返しいたします」
見つからなくて依頼日数以上長引けば、料金が上がっていく。途中で依頼を断ることも悪質でなければ了承している。
「はい。でもいくらかかっても、見つけてもらいたいです」
彼女は真っすぐに俺を見た。父親との思い出。なんとかして見つけてあげたい。
「わかりました。全力を尽くして見つけます」
俺はズミと視線をかわして頷いた。