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第10話 思い出の万年筆 3


  俺とズミは、マリナの失くした万年筆の特徴などを調べたりしていた。

 失くしたと思われる日の二、三日前後のスケジュールをもとに出かけた場所など、確認作業をしていた。


 「忙しいスケジュールだね。お休みの日が少ない」

ズミがマリナのスケジュールを見て言った。確かに雑誌の特集記事の仕事や、テレビの出演などが入っていて忙しそうだった。

 気になってマリナの歌を聞いてみた。歌が上手で、ファッションリーダー的なのもマリナの好かれる要因なのか。


 テレビをつけてみると、ちょうど音楽番組がやっていてなんとなく観ていた。今、流行っている曲を歌手たちが順番に歌っていた。

 「あ、マリナ!」

 ズミに言われて画面を観るとマリナが映っていた。


 スタイル良いのが際立つ衣装で、イントロからダンスが始まった。

 「……ステージに立つと、存在感が凄いな」

 事務所で会っていた時と違ったオーラを放っていた。ダンスは長い手足で、広いと思われるステージを狭く感じさせていた。


 全身を映してダンスを見せていたカメラが動いてマリナに近づき、顔をアップにした。歌を歌い始めるとその声に引き込まれた。のびやかで力強い歌声は目が離せなかった。

 激しいダンスをしながら歌うのは、凄いと俺は思った。

 「だね。歌もうまいし、ダンスも上手」

 ズミも画面に釘付けだった。


 「……?」

 終盤、ちょっと苦しそうに歌っていた。でも持ち直して最後まで歌いきっていた。

 「マリナ、眠れてないのかなぁ……?」

 ズミもそう感じたのだろうか? 俺達は歌手のマリナだけじゃなく、先月、父親を亡くした満里奈も知っている。事務所へ来た時も目の下にクマがあったのに気が付いた。

 「早く、見つけてやらないとな」

 「うん」

俺も、ズミも頷いた。


 「いまさらだけど。中へ入ったことのない場所へ行けるの?」

 ズミはそう言えば……と言い、俺に聞いてきた。無理もない。俺の特殊能力は他の誰にも理解されない。

 「行ったことがない場所は、建物や風景の写真を見ないと行けない。ただ、人物を通してならどこへでも行ける……らしい」

 変な話だが俺自身も、よくわかってないこともある。

 「ふうん。そうなんだ」

ズミは、これ以上は聞いてこなかった。


 「いつ、探すの?」

 パソコンを操作しながら俺に聞いてきた。資料もそろったし、そろそろ何か所か探してみようかと考えていた。

 「今から探してみる。この後、なにか用事があるか?」

 俺のスケジュール管理はズミに任せている。他に依頼がなければいいが。ズミは手帳を取り出して今日のスケジュールを確認した。

 「今日は事務所に依頼人は来ないよ。依頼は来てたけど、検討中。あとで調べとく」

「わかった」


 ならばこの後、探し始めようか。

 「ズミ、資料を」

「はいよ!」

 ガタン! と椅子から立ち上がってズミは資料を俺の元へ持って来てくれた。


 「ベッドで横になって始めたらどう? ソファーだと狭いでしょう」

 たしかにソファーだと俺が横になるには狭い。ギリギリだ。

 「だがな、ズミ。ベッドは眠るときにだけ、使いたい」

 睡眠時と能力を使うときは、ちょっとだけ似ている。ただ意識を飛ばす次元が違うというか……。SFぽくなるのか? 

  この辺の話は長くなりそうだし、説明が難しいのであえて話さない。


 「そう。なにか用意するものある?」

 能力を使うとき、依頼人本人のなにか物などあればイメージしやすい。

 「マリナの曲をかけてくれないか?」

 「オッケー」

 本人の曲ならばいいだろう。ズミはテーブルの上へ置いたケータイからマリナの曲をかけてくれた。

 資料を読むと、ある一日は移動の多いことが分かった。


 「一つ一つ、探していくか……」

 本人の話だと訪れた場所は全部探したり、人に聞いたりしたが見つからなかったと言っていた。まあ、見つからなかったからここ狗鷲探偵事務所へ来たのだが。

 「じゃあ、後はよろしくな」

 「まかせて」

 俺はソファーへ横になった。長くなりそうなので、座ったままだと戻って来た時に疲れるからだ。


 「まずは……。ここのスタジオへ行って、次がTV局。次、ラジオ。その他は……。あとでいいか」

 ソファーへ仰向けになりながら資料を読む。移動個所を確認して捜索のルートを決める。パサ……ッ、と資料をテーブルへ戻した。

 「ふう……」

 深呼吸してまぶたを閉じる。指を組んでお腹辺りに乗せておく。眩しいのでアイマスクをつけてみた。良い感じだ。


  【検索サーチ


 資料にあった場所の地図を思い出して、意識を飛ばす。すぐにその建物の目の前に行ける。

 曲を作りに来たスタジオ。初めての場所なのでマリナの痕跡を辿る。

『う――ん』

 室内の床はきれいに掃除しており、ごみ一つ落ちてなかった。もしなにか万年筆など落ちていたならすぐにわかるだろう。しかし落し物は、なかったようだ。

 俺は次の場所へ向かった。


 次はTV局。先ほどTVで観ていた番組がここで撮影されていたようだ。

顔パス……ではない。どうやら俺は見えてないので、入り口で引き留められずに中へ入れた。この能力は悪いことをしようとすれば出来るが、面倒なので俺はやらない。


 さすがTV局。色々な人が出入りしていた。













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