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第3色 ナナちゃんのピンクと黒

観光客もまばらになった、夕方過ぎの彩海商店街。田舎のカラスが空を飛び、ガアガアと人を小馬鹿にしたような鳴き声を響かせる。


こちらは自他共に認める馬鹿、ハルトだ。カウンターの椅子に腰掛け、花バァと雑談をしている。 「ババァってさー、感情が色で見えるって言うじゃん?」天井のシミを見ながら、暇そうに聞く。

「言う、じゃないんだ。実際に"見える"んだよ。お前のは、好奇心の青色だ。」


茶をすすりながら、花バァが答える。

「マジ!?青やべえ。戦隊ヒーローだったら重要ポジじゃん!」

「お前みたいなバカが、ヒーローになったら、地球が終わるね。」

「ババァ、きついってー。」 いつものやりとり、暇を持て余した2人のコミュニケーション。花バァは、それが嫌いじゃない。


「ところでさ、ナナちゃんの色って何色?」 姿勢を直し、向かいの店、海キラリの店先でオロオロしてるナナちゃんを見る。


「あの子の色は、"キラキラのピンク"。優しさの色さ、でもね…この前、客に怒られてたろ?あの時は、ピンクに黒が混ざってた。」 お茶を入れ直し、煎餅をかじる。


「黒?って、どんな感情なの?」 食いつくハルト。 「…秘密か、後悔か、そんなとこだね。あの時は答えてくれなかったけどねぇ…」


「えー!面白そう!秘密めっちゃ気になる!!ナナちゃんに聞いてみようかな!」 思春期の男子は、女の人の秘密が気になるものである。


「やめときな!バカガキ。女には、色々事情があるんだよ。お前のスマホに聞いても、教えてくれないよ。」呆れる花バァ。

(…あの子が自分から、言ってくるまで待つさ。)


ガラッと勢いよく開く店の入り口。 ナナちゃんが、息を切らし駆け込んできた。 「なんだいなんだい、借金取りじゃあるまいし、そんな勢いで来なさんな」


「おばぁちゃん、、あの、これ、見て欲しくて…。」 ナナちゃんが、白い封筒から焦って取り出す。床に書類がヒラヒラ落ちる。中身は印刷された納品伝票と、手描きのメモ地図。 他に2枚あったが、ハッとして慌てて拾い、ポケットにしまう。


「あ、あの、この地図、、星光石の仕入れ先ってことで送られてきたんです。でも、私が頼んだのは、、、違う場所だったはずで…。」


ナナちゃんの声は微かに震えていた。顔色もなんだか冴えない。


「これ、どこか心当たりでもあるかい?」


花バァが、地図を覗き込む。手書きの印に見覚えのある通りの名前があった。


「このあたり…港の外れじゃないかね?空地になっている所に、昔倉庫があったよ。今は…」


「トレーラーハウスが何台かあるって聞きました。配送の拠点になってるって、、、でも、、何の、、?」


ナナちゃんは、言葉を飲み込んだ。口元がきゅっと閉じる。


ハルトがちらりと地図を覗きこむ。 「ババァ、これさぁマジで怪しくね?“星光石”って言いながら、場所が全然違うって…なんかの裏ルートっぽくね?」


「バカガキ、いらん推理をするんじゃないよ!」


花バァは、ナナちゃんに目を向ける。

「……ねぇナナちゃん。この地図、どうしてあたしに見せたのさ?」


ナナちゃんは、一瞬言葉に詰まった。

「…うちの店で扱ってる石のことだから、、自分でちゃんと調べなきゃって思ったんです。でも…なんか、気持ち悪くて、、、それで、おばぁちゃんなら、何か分かるんじゃ無いかなって思って、、それで…。」


(そうさねぇ。分かるのは石だけじゃない。アンタの”気持ち”の色。助けを求める色だよ…)


「いいよ、引き受けた。こりゃあちょいと鼻が利く、ばぁさんの出番だねぇ。」


「…ありがとう。おばぁちゃん…。」


その夜。花バァは、ガラケーを片手に地図とにらめっこをしていた。 港のはずれ、トレーラーハウス、得体のしれない流通経路。 (何かが動いているねぇ。ナナちゃんだけじゃない。他の大きな何かが…。)


「…あの時の”あいつ”が関わってなければいいけどねぇ」


花バァの目が細くなった。 商店街の空には、星が瞬き始めていた。一つ一つが、静かに問いかけるように輝いていた。

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